260423 きのこ
その大地はすべてがキノコに寄生されていた。
始めはひとつの森だった。生えているキノコは大きなものでは樹木ほどの大きさがあり、しかもさらに成長を続けていた。キノコの胞子は周囲へと飛散し、森は徐々に大きくなっていった。さらに、胞子を吸い込んだ生き物はキノコに寄生される。寄生された生き物に、自覚はない。けれど気づかないうちに体内でキノコが繁殖し、体中の栄養を吸い取られていく。いつのまにか食べても食べても栄養が足りなくなり、やがて衰弱死してしまう。そして生物の死骸からはキノコが生え、やがて周囲に胞子を飛ばして新しいキノコの森を生み出すのだ。
人類がその恐ろしさに気づいたときには、すでに手遅れだった。世界中に繁殖したキノコはもはや殲滅するのが不可能で、見つけ出して焼き払う速度よりも、知らないところで増える速度の方が早かった。
やがて人類の活動圏内にまでキノコが入り込むと、まずは貧困層が飲み込まれていった。体内に寄生したキノコが発する自覚症状は栄養の不足。けれど貧困層では、初めから栄養失調だから自覚症状が出るのが遅く、しかも命の危機となるのが早かった。定期的な健康診断も、余裕がなければ受けられない。
そうしてどうしようもないほどに蝕まれた地域が出たことで人々はパニックになったが、有効な対処は打てなかった。そこの人々を切り捨て、該当地域を封鎖してしまおうというような意見も出されたが、賛成派と反対派がぶつかっているうちにキノコは世界規模で拡散。寄生された人や生き物があらゆる場所で発見されるに至り、封鎖措置の意味そのものがなくなった。
人類は負けじとキノコの寄生から逃れるための薬、治療のための薬を開発した。手術をしなくてもキノコを取り除ける薬のおかげで治療にかかるコストが劇的に緩和され、人類は少しの希望を見出した。けれど薬は先進国が過剰なほどかき集め、貧しい地域ほど数が足りず、進行は加速度的に進んでいった。巨大なキノコの森が街を飲み込み、国を滅ぼす。世界経済は混迷を極め、様々な物資が不足。生産力が衰えたことで頼みの綱だった薬の供給力が下がり、逆にキノコは繫栄に比例してさらに拡大を速めていった。
やがてネズミなどから発生したキノコへの対処が追いつかなくなり、耐えきれなくなった街から順番に陥落していく。街が滅び、国が崩壊し、土地がキノコに飲み込まれるほど人は力を失った。
文明が消え、人々は小さな集まりとなって自分たちの生きる場所だけはどうにか守ろうとしたが、長くは続かなかった。かつての遺産を食い尽くしたものたちから倒れていく。最後はあっさりと、あっけなく、それが当たり前の事象であるかのように、すべての大地はキノコに染められた。
けれども人の絶えた大地で、キノコに飲み込まれた世界でも命は繋がっていた。胞子の舞う世界でほんの少しの、キノコに適応できた種が世代を繋ぎ、変わり果てた土地で再び系統樹を広げていくのだ。




