第8話 商館での売約交渉
店を出た私は、真っ直ぐ目的の商館へと足を運んでいた。
扉に備え付けられたドアノッカーを三回、リズムよく打ち鳴らす。すぐに扉が開かれ、店員が顔を出した。
「なんの御用でしょうか?」
「私はツバキという者だ。支配人を呼んでくれ」
そう言って、冒険者ギルドの認識票を見せる。
「こちらへどうぞ」
店員に案内され、応接室へと入る。
「ただいま呼んで参ります。今しばらくお待ちください」
部屋の中心に置かれたテーブルとソファ。
私は出口側のソファにもたれかかり、支配人を待つ。
テーブルに置かれた茶と菓子には、手は付けない。
さほど待つこともなく、すぐに支配人はやって来た。
「お待たせいたしました、ツバキ様。まずは御掛けください」
「ああ……」
テーブルを挟み、腰を掛ける。
……さて、気を引き締めねば……。
「さて、ツバキ様。本日はどのような御用件でしょうか?」
「赤い髪をした混血の少女を売ってもらいたい。ウィステリアという名だ」
要件は単刀直入に行く。
そういった腹芸は、得意ではない。
「……ツバキ様は随分と耳ざといようですな。しかし、あの娘はまだ作法の仕込みどころか怪我の治療も済んでいない有様でして……」
「かまわない。金貨百枚出そう。売ってくれ」
相手の調子に合わせてはならない。
下手に手を出される前に、ウィステリアを確保する。
「いえいえ……あの娘はかなりのもので、怪我を治し、肉付きが良くなれば競売で三百は下らないと見ておりまして……さすがに百では……」
「だが、まだ怪我は治っていないし、痩せているんだろう?百二十だ」
「ええ。とはいえ競売まで待たずにすぐにとご希望されるのでしたら、それなりに誠意を見せて頂きたく……そうですな、二百七十程は頂きたい」
誠意だと?
よくもまぁそんな言葉が言えるな……。
「……この規模の商会の支配人ともなれば、あの娘の出自もおおよそ見当がついているだろう。その上で商品として扱う意味は分かっているか?…百五十」
「ええ、もちろん。ですが、遠い帝国の没落貴族なぞ、さほど怖くはありませんな。とは言え、目の前の剣聖様は少々恐ろしい……二百五十でいかがです?」
「奴はあれでも武家貴族だ。今売るなら、私は何も余計な事は話さないと誓おう。二百でな」
支配人は、そこで初めて「ふむ……」と少し考えるように体重を一度背もたれに預けた。
「……ま、仕方ありますまい。二百三十でお売りいたしましょう」
「いいだろう、二百三十だ。──ああそれと、黒髪の少年も一度見せてもらいたい」
ウィステリアはこれで大丈夫だろう。
次は、戦いの神だとかいう奴だ。
「……本当に耳ざとい方だ。そうですなぁ…ではご一緒で二百五十でいかがですか?」
「……ま、いいだろう。二人で金貨二百五十枚だな」
「ありがとうございます。それでは、こちらの証書に金種と枚数、最後にサインをお願いいたします」
一応、証書に仕掛けがないか確認し、内容をよく読んでから金貨二百五十枚とサインを書く。
「それでは、二人を連れてまいります。少々お待ちください。」
「いや、まずは黒髪の少年がどんなもんか見たい。中庭を貸してくれ」
「かまいませんよ。もしやり過ぎてしまっても、最後はこちらで処理いたしますので気兼ねなくどうぞ」
「……私をそんな素人だと思っているのか?」
「おっと、これは大変な失礼を致しました。それでは、こちらへどうぞ」
さて、オッズの言っていた妙な奴がどんなものか……。
まぁ最悪頑丈なだけなら、荷物持ちとして頑張ってもらうとしようか。




