第7話 場違いな客と…
街の中、様々な店の並ぶ商店通りの一角にある、可愛らしい装飾と落ち着いた雰囲気のカフェにて、場違いな男が一人紅茶を楽しんでいた。
店主の大柄な男は、二対の太い腕を組んで難しい顔でその客を油断なく睨み、店員は距離を置いて様子を伺っている。
カランッと扉が開かれ、付けられたベルの音が店内に響く。
入って来たのは、黒く長い髪を紐で束ね、額の片側に角をもつ女性だった。
動きやすい軽装の鎧と腰には刀を装備した女性は、場違いなその眼帯をつけた緑の大男を睨みつけ近寄る。
「アンタみたいなのが、ここで何をしている」
「茶を楽しんでるだけじゃねぇか。そう怖い顔で睨むなよ」
「……迷惑な客が来ていると聞いて来てみれば……」
「なんもしてねぇってのに、ひでぇ言われようだな」
カラカラと笑う緑の男。
「自分の格好を見ろ。山賊の仕事帰りにしか見えないぞ」
「はっはっは!ちがいねぇ。……実のところ、オメェさんに会いたくてな」
うって変わって、神妙な様子でそう言う眼帯の男。女性は訝しげな顔で首を傾げた。
「座りな」と促され、対面の席に座る。
「昨日の仕事でな、オメェさんが探していたのを見つけたかもしれん」
「なに?」
「赤い髪をした混血の嬢ちゃんを、いつもの商館に売り渡した。今頃は、身綺麗にされてんじゃねぇかな」
「……その娘が、ウィステリアだと?」
「あぁ…確かそんなふうに呼ばれてたぜ?」
女性は、眉間に皺を寄せ考えこむ。
「……一体、何が目的だ?」
「そう怖い顔で睨むなよ。俺ぁ単に、オメェさんのファンなだけさ。鬼姫」
「黙れ。次その名を口にしてみろ。その片目を潰してやる」
「おー怖っ」
肩をすくめ、目を逸らす眼帯の男。
「ヘカトンケイルの旦那!茶をもう一杯頼む!緊張で喉が渇いてしかたねぇや!」
「オッズ、あまりツバキを揶揄うのはよしなさい。──それと、私のことを"旦那"って呼ぶんじゃない。ヘカティって呼びな」
そう言って、凄みをきかせながらも、慣れた手付きで紅茶を入れる、店主ヘカトンケイルことヘカティ。
「すまない。私の分も頼む」
「はいはい。…ツバキ、あまり熱くなっちゃダメよ?」
「わかっている」
険悪な空気の中、運ばれて来た紅茶に口をつける二人。
「ああ…それともう一人、妙な野郎も売ったんだ」
「妙な野郎?」
「ああ。オメェさんと同じ、黒い髪のガキでな。てんで素人だったんだが、やたら頑丈でよ。見た目は人族だったんだが……そうだ、情報を売りに来た奴いわく、戦いの神だそうだ」
「なんだそれは……」
ますます、胡散臭いと言いたげなツバキ。だが、オッズは構わず続ける。
「素人なりに、こっちの隙を見て斬りかかってきやがってよ、それなりに肝は座ってやがった。それに、首を折る寸前まで締め上げたつもりが、まるで生の丸太でも握ってるみてぇな感触でよ……ありゃあ、ひょっとするかもしれんぜ」
「…………」
ツバキはオッズを睨みつけたまま、ポケットから金貨を一枚取り出し、テーブルへ置いた。
「ヘカティ。悪いけどつけといてくれ。急ぎの用が出来た」
「わかったわ。気をつけていってらっしゃい」
ツバキは答えず、店を後にした。
「───っはぁ!!やっべぇ……死ぬかと思ったぜ……」
息を大きく吐き出しながら、脂汗を浮かべるオッズ。その手は少し震えていた。
「そう思うんなら、なんでわざわざあのコを挑発するようなマネするのよ」
「今更俺がアイツにヘーコラしたってウソ臭えだけだろうが。これでいいんだよ」
「変な意地なんてはらなきゃいいのに。バカね」
「謝ったところで、アイツは許したりしねぇし、俺も許されるとは思ってねぇ……ただ……」
そう言いながら、カップの中で揺れる紅茶を眺めるオッズ。
「ただ?」
「……これで少しは、あの敵意を鎮めてくれりゃあ、有り難えんだがなぁ……いつ斬られるか怖くて仕方ねぇ……」
「……自業自得でしょ、それ」
ヘカティの言葉に、オッズは笑って「違いねえ!」と返した。




