第6話 檻の中へ
ようやく涙は止まったが、まだ心は落ち着かない。
だけど、そんな俺にかまわず馬車は止まり、扉が開かれた。
「二人とも降りろ」
赤い肌の小男が、短くそう言ってくる。
……なんとか、逃げ出せないか?
子供程の身長しか無い小男なら、手が不自由でも体当たりで押し除けるぐらい出来そうだが…いや、待て。
まずは外を確認してからだ。
指示に従って、ウィステリアより先に外に出る。
周りを見渡すと、四方が建物で囲まれていた。
どうやら、大きな建物の中庭みたいな場所のようだ。
──これじゃ逃げるのは難しいか……。
ウィステリアも馬車から降りると、小男は俺達二人の手枷に鎖を付けて、リードのように持ちながら、「こっちだ」と短く言って進み出した。
俺とウィステリアは、引かれるまま小男の後ろについて行く。
なんとか隙は無いかと、周りを観察しながら歩いていると、小男が声をかけてきた。
「バレバレだから言っておくんだが、逃げようなんて思うんじゃねぇぞ。逃亡者を許すようにはなってねぇし、逃すような甘い作りにもなってねぇ。大人しく従ってりゃ手荒なマネはしねぇからよ」
「………!」
こっそり見ているつもりだったが、バレていたのか……。
「ま、手荒くされて従順になるまで躾けられたいなら構わんがな。だが、こっちとしてもせっかくの商品にわざわざ傷を付けるようなマネはしたくねぇ。だから、大人しくしてろ」
ウィステリアは、小さく「はい…」と答えていた。
俺も一応、頷いておくが……このまま黙って従っても先は無い。
どうにか……どうにかしなければ……!
そうしている内に、二階へと移動させられる。
小男が立ち止まって、窓の外を指差した。
窓からは先程の中庭が見下ろせる形になっており、村人達が馬車から降ろされている様子が見えた。それほど人数が多くなかったのと、かなり抵抗して暴れて目立っていたから気付いた。
「ランタ……アイツも捕まってたのか……」
ランタは何か叫びながら抵抗し、やって来た緑の大男達に取り押さえられていた。
そして…立たされ、背中を大きめのヘラのような物で叩かれる。
かなり大きな音が鳴り響き、ランタの悲鳴が聞こえてきた。
「あんな事、されたくねぇだろ?従順でいるのが賢明だぜ?」
……このためにわざわざ立ち止まったのか。
また、歩き出した小男の後を黙ってついて行く。
少しすると、別の小男が待っており、ウィステリアの鎖がそいつに渡された。
「ウィステリア…!」
彼女が連れて行かれてしまう…!だが……今の俺にはどうすることも……!!
「神様……いえ、ガゼル様。わたしは大丈夫ですから。どうか、ご自身を大切になさってください」
そう微笑んで、ウィステリアは連れて行かれてしまった───。
しばし、立ち止まっていたが、俺も鎖を引かれて、また、歩き出す。
すぐに目的の部屋に着き、中へ入れられる。
重苦しく扉が閉まり、ガチャリ─と、施錠の音が鳴り響いた。
「あの赤毛の娘、いい子だな」
「……ああ」
「………なるほどな。
よし、こうしよう。もし、お前が反抗したり、逃げようとしたら、あの娘に罰を受けてもらう」
「なっ──!?ウィステリアは関係ないだろ!!」
「関係、あるだろ。どう見てもよ。ま、オメェさんが大人しくしてりゃ、なんもしねぇよ」
「……傷つけたくないんじゃなかったのか?」
そう言うと、小男は下卑た笑い声を漏らした。
「別に傷つけねぇ罰のやり方なんざ、いくらでもあるさ。オメェも男なら、想像出来るだろ?」
そう言って笑う小男に、全身の血が逆流したかと思うほどの怒りが湧き上がって来た。───だが……駄目だ───。
「怖え顔だが、立場はわかってるみてぇだな。結構結構、そうやってあの娘の為に従順でいるんだな」
小男は、それを最後にどこかへ行ってしまった。
深呼吸をしながら、なんとか怒りを鎮める。
しかし、これで完全に八方塞がりになってしまった。
まず、俺が脱出しない事にはウィステリアを助けられない。
だが、俺の行動でウィステリアに危害が及ぶかもしれないと……ダメだ。解決策は何も思い浮かばない───
手枷と首輪の重さが、どこまでも俺の気持ちを落としていくようだった。




