幕間① ランタ
──こんなはずじゃなかった──
◇
オレはこの集落が嫌いだった。
曰く、古代において栄華を誇った人族の王国の末裔だとか、そんなものに縋っているのがみっともなかった。
集落の長である親父は、何かというと『我が家は由緒正しき古代王国の王族に連なる血族なのだぞ』などと……恥ずかしくて仕方なかった。
いつか、こんな所とはおさらばして、町で面白おかしく暮らすのだと、そう思った。
まぁ…外の世界には薄汚い亜人共が跋扈しているが、それは仕方がない。
奴らの国が、現在栄華を極めているのだから。
しかし、そんな奴らの中にもまだ見れる者もいる。
子供の頃のことだ。
攫われた巫女が、竜の亜人とそいつとの子供を連れて帰って来た事があった。
親父達は竜の亜人を殺し、巫女を取り戻した。
その後、外の世界の穢れに触れてしまった巫女を清め、次代の巫女を生ませようとしたらしいが、無理をさせ過ぎて死んでしまったらしい。
残された子供、ウィステリアは村で飼われる事になった。
オレは、一目見てその可愛さに惚れ、親父に言った。
『あの子をオレにくれ』と。
しかし、親父はそれを許さなかった。
『由緒ある我が家の跡取りたるお前が、あのような穢れに触れてはならぬ』と言って。
……オレは、納得など出来なかった。
何かにつけて、ウィステリアを構ってやった。
遊んでやったり、食べ物をあげたりもした。
将来の為に、人族のオレに逆らったらどうなるか、躾もしてやった。
年数が経ち、母親に似て可愛らしくも美しくなっていくウィステリア。
やはり、ウィステリアはオレの物だ。オレが手に入れるべき物だ。
──そう思った。
オレの物にするには、親父や集落の奴らは邪魔だった。
それに、外の世界で暮らすには、外の世界の通貨がいる。
交流のある、同じような集落とのやり取りで使っている、ボロボロで粗末な貨幣など使えはしないだろう。
そこでオレは、たまに村人を攫いに来る亜人共に目をつけた。
奴らに接触し、取引を持ち掛ける。
村人を捕らえる協力をするから分け前をよこせ、と。
最初は生意気にも疑っていた奴等だが、子供を一人、連れてきて渡してやったら信じたようだった。
邪魔な取り巻きや、戦士達を売り飛ばし、時に始末して着実にウィステリアをモノにする準備が整ってきていた。
そんな時、戦いの神ガゼルの降臨の儀を行うという話になった。
戦いの神ガゼル──
亜人共が崇める邪神達と戦い、卑劣な罠によって封じられたと伝承が残っていた。
どこかの大陸の広大な荒地は、その戦いによる傷跡なんだとか。
バカバカしい。
そんなもの存在しやしない。
仮に伝承が本当だとしても、穢れた巫女であるウィステリアに呼べるはずもない。
無駄な行為だ。
だが、一人の男が現れた。
先に出てきたウィステリアを追うように小屋から出てきた男を見た瞬間、脂汗が全身の毛穴から噴き出したような錯覚に襲われた。
それほどに異様な雰囲気と威圧感があったのだ。
だが、次の日に見た時には何も感じる事はなく、ただの頼りないガキだった。
──あれはきっと、祭事の雰囲気で勘違いしただけだったのだろうと、そう思う事にした。
しかし、親父はアイツを神だと言い、オレのウィステリアを差し出した。
オレの!オレだけのウィステリアを!
早く……!早く取り戻さなくては……!
奴隷狩りの亜人共に、神と呼ばれる者が現れたと教えてやり、この機に集落を滅ぼす事を提案し、集落の戦力や配置等の情報を渡す。
いい機会だ。
あんな奴等だが、最後はオレの資金の足しになってもらおう。
亜人共に、ウィステリアだけはオレに寄越すように言い含める。
アレはオレの物だと。
そして、実行の時がやって来た。
オレは親父に様子を見てくると言って、亜人共と合流する。
事前に聞いていたが、かなりの大人数だ。
必ず成功すると確信した。すべては順調、上手くいっていると……そう思っていた。
だが、集落の制圧が終わり、ウィステリアを受け取りに行こうとした所で奴等の頭領に足止めされた。
「あの赤毛の嬢ちゃんだがな、ありゃ思った以上の上玉だ。オメェみてぇなクズにくれてやるには惜しい」
そんな事を言い出したのだ。
当然オレは怒り、掴みかかった。
アレはオレの物だと言っていたはずだ!薄汚いお前らが触れて良い物じゃない!と。
すると頭領はニヤリと凶悪な笑みを浮かべて、
「なら、仕方ねぇ。テメェも商品の仲間入りだ。なぁに心配すんな。オメェみてぇな野郎でも、鉱山はいつでも人手不足だからよ!」
そう言い終わるやいなや、オレは投げられ、痛めつけられ、囚われてしまった。
……こんなはずじゃ、なかった……
こんな……オレが、奴隷になるなんて……オレは、貯めた金で、町でうまくやっていくはずだったのに……
どうして……どうして───




