第5話 暗闇の中で
『どうして──なぜ──』
『消滅させ──世界の均衡──』
『──!どうか!どうかあの子を──』
『無理だ!──!』
『お願いします!──あの子を救う──けてみせます!』
『な───?』
『あの子は、私達の愛だから──』
──光と、闇が、何かを、話していた……。
◇
「う……ん……?」
ゆっくりと、視界が広がっていくが、暗く何も見えてこない。
ガタガタと地面が揺れて体が痛い。
「ここは……そ、そうだ!俺は……ウィステリア!」
意識がようやくはっきりとし、何があったのか思いだした。
俺は、あの緑の男に返り討ちにあって気絶させられた。
問題はその後だ。
ウィステリアは?村はどうなったんだ?俺は──。
「神様、起きられましたか……」
「ウィステリア……?」
暗闇から、ウィステリアの声がした。
声のした方へ動こうとして──そこで、俺はようやく自分の状態に気付いた。
両手に木製の枷が付けられ、首には金属の首輪が付けられていた。
……どう見ても、囚われてしまっている。
ガタガタという音と振動、地面や周りは、感触から木製っぽい感じ……ここは、木箱の中で、運ばれている?
窓にあたるものが無いせいで、真っ暗なのか。
「ウィステリア……何があったのか教えてくれるか?」
正直、聞くのが怖かった。
だけど……聞かないといけない……聞かないわけにはいかない。
「はい……神様が気を失われた後、集落は滅びました……。老人や抵抗した人達は皆殺され、大人しく降参した者は囚われ、枷を付けられて馬車へ乗せられました……」
「……そうか……」
「わたしと神様は特別だって言われて、他の人たちとは別の馬車に……」
「それじゃ、ここには俺達だけなのか」
「はい……」
結局、俺は何も出来なかった。
村は滅ぼされ、ウィステリアを逃がす事も出来ず、俺自身囚われの身だ。
「ごめん……ウィステリア、俺は──」
「神様、わたしは悪い子です」
「え?」
ウィステリアの、今まで聞いたことのないハッキリとした声に戸惑う。
「目の前で長が刺された時も、皆が殺されている時も、わたし……いい気味だ、天罰だって、罰が当たったんだって……」
「ウィステリア……」
「だって……あの人達……あんな──あんな奴等!お、お父さんも、お母さんまで殺した!あんな奴等!う、ううううううううううううう……」
ウィステリアの嗚咽が、あまりにも苦しい……。
なんと言えば、声をかければいいのか……わからない。
「……わたし、小さくてあんまり覚えてないけど…でも……お父さんとお母さんが仲が良かったのは、おぼえてたんです。あいつらは、それも……!どうして!?人族だから、なんなの!?」
これは、ずっと彼女が押し殺されていたものなんだ……。
あの村は、一体何をやっていたんだ……!
「……ごめんなさい……」
「え?あ、いやその……こっちこそ、ごめん。俺、なんて言ったらいいのか……」
「違うんです……。貴方は関係なかったのに、巻き込んでしまった……私が、ちゃんとした巫女じゃなかったから……ただの人だった貴方を、わたしのせいで……」
「それは……」
それは違う。
そう、言えはしなかった。だが……。
「言っただろ?俺は、ガゼルだって」
「え……?でも、それは……」
「あー!わかるよ!?こんな頼りない神がいるかってさ!」
少し、大きめの声で、出来るだけ明るく話す。
頼む……今だけ、あと少し、声よ震えないでくれ。
「言ってくれた願い事は叶えられなかった!ホントごめん!次は、きっと叶えて見せるからさ──だから……」
だから──俺を一人にしないで──
言葉を続けられない。これ以上は……
涙がポロポロとこぼれて、止められない。
「あ……ご、ごめんなさい!わたし、そんなつもりじゃ……」
「だ、だい、じょう、ぶ……」
全然、大丈夫じゃ、なかった。
俺は─俺も、もう限界だった。
声を押し殺して、泣いてしまっていた。
ウィステリアの、そっと黙って傍にいてくれる気配を感じる。
慰めるつもりが逆に慰められたのが情けなく思い、けれど少し安心している自分がいた。




