12話 帰る場所
ヘカティさんのお茶とお菓子で一息ついた。
……だけど、ここからだ。
「さて、これからの話をする前にウィステリア。家族の事は憶えているか?」
「……!……いえ、あまり……」
……必要なことだとわかってはいるが……こういう時、周りはどうしたらいいんだろうか?
「そうか。……私は、君のお兄さんから捜索を頼まれていてね。帝国の竜人。武人。貴族。何か、記憶に残っていないか?」
「どこか、遠くから旅をしたのと……大きなお屋敷、兄ともう一人の母は、その……おぼろげに……。あと、わたし…半分竜人……です」
しっかり答えてはいるが……どうする?手を握るとか……?いや、なんだそれ……ダメだろ。
「竜人の混血。赤い髪。ウィステリアという名前。そしてその記憶なら、間違いはないだろう。君が探していたウィステリアだ」
「探して、くれていたんですね……」
「ああ……。代わりの者ですまないな。……だが、奴も動くに動けなかったんだ」
ウィステリアは、少し震えて涙を……。
「……いいんです。わたし……」
「ウィステリア……」
「……私は、君を家まで送り届けるつもりだ」
それは、そうか……。
そうだよな。帰る場所があるなら、それが一番良い……よな。
「帰れる……?」
「そうだ、必ず送り届けよう」
「よかったじゃないか、ウィステリア」
「……はい」
ツバキさんは、紅茶を一口飲んで、少し言いづらそうに、口を開く。
「聞いておきたい事がある。……私は、とあるオークから君達をあの商会に売ったと聞いて、買ったんだが……その前はどうしていたんだ?」
「……!」
「ツバキさん!それは──!」
思わず立ち上がってしまうが、ツバキさんに手を上げて『落ち着け』と抑えられる。
「帝国まで送り届ける上で、君に何があったのか知っておきたい。……なぜ、戦いの神の巫女なんてしていたんだ?」
「やりたかったわけじゃない!」
ウィステリアの大声に、俺は驚くよりも、いたたまれなさを感じた。
「あ……ごめん…なさい……。その……」
「いや、こちらこそ…すまない。だが、君を護る上で、情報は出来るだけあったほうがいい」
『だから頼む』と言うツバキさんに、ウィステリアはぽつり、ぽつりと話してくれた。
両親を殺された事。
あの村に囚われていた事。
混血を理由に人として扱われていなかった事。
……滅んで、当然だと──そう思った。
「なるほど……。人族至上主義者ヒューマシストの連中に囚われていたのか」
「人族至上主義者?」
なんだそれ?
「ああ……。ガゼル、この街に来てから色々な種族を見ただろ?」
「あー…緑の肌だったり、赤い小男とか……」
「緑のがオーク、小男はゴブリンだな。私やヘカティは少し特殊だが、ウィステリアも半分竜人。そんな私達のような理性ある人型の存在を"人間"とするのが一般的だ。だが、人族至上主義者は、人族のみが人間で、それ以外は亜人と言って見下す」
「それじゃ、街には人族はいないのか?」
「いいえ、いるわ。普通に暮らしている」
「あんな古い価値観に囚われている奴はいない。いたとしても、極少数がコソコソしてる程度だろうね」
じゃあ、あの村の連中はなんだったんだ?
「……そういえば、王族の末裔だとか言っていたのを覚えてます……」
「だろうね。旧王国時代の残りカスだよ……あ、いや…ごめん。言い過ぎたね……」
「いえ……その通りだと、思います」
そうか……ウィステリアのお母さんは村の出身だったから……。
「ウィステリアは、ランタ達とは違う。そうだろ?」
「……そう……ですね……」
あ、あれ?俺、なんか間違えたか?
「嫌な事を聞いて悪かった。既に村が滅んでいるなら、君を取り戻そうとする追手の心配はいらないな」
「それは……大丈夫だと思います」
「よし。なら準備を整えたら帝国を目指して出発だ」
そう言って残りの紅茶をグイっと飲み干すツバキさん。
漢らしいな……。
「もう出発するのか?」
「いや……準備を整えたら、だ」
「そうよガゼルちゃん。貴方は大丈夫でも、ウィステリアちゃんに長旅は無理よ。まずはよく食べて、体力をつけないといけないわ」
確かに、ウィステリアはかなり痩せているしな……。
大丈夫って言われてるけど、俺も正直ちょっと自信ないぞ。
「長旅になるからな。しっかり準備を整える。ガゼル、君もキッチリ鍛えてやるから覚悟しておけよ?」
「……はは、お手柔らかにお願いします……」
「お願い、いたします……」
俺とウィステリアは、二人して頭を下げた。
何をするのかわからないが、頑張るか!




