13話 街にて…
頑張るか──なんて意気込んだそんな俺は今、ヘカティさんに連れられて街の商店通りに来ていた。
何からするのか。やっぱりまずは走り込みとか?なんて考えたりしていたところ『まずは食事にしましょう。焦る気持ちもわかるけど、まずはお腹いっぱいにしないと力が出せないわよ?』と、ヘカティさんが言い出した。
何を悠長な事を……大体一食二食抜いたところでそこまで大した事は……なんて考えた辺りで、ウィステリアが痩せ細っていた事を思い出した。
少し遠慮がちにお茶請けのクッキーを頬張るウィステリア。
……確かに、まずは腹ごしらえか。そう考え直し、ヘカティさんの提案に頷いた。
ツバキさんも同意し、俺は『それじゃ、腕によりをかけてごちそうしちゃうわね!お買い物に行きたいから、ガゼル君を借りてもいいかしら?』という流れで、食材買い出しの荷物持ちとしてヘカティさんに同行していた。
既にいくつもの店を回り、野菜、果物、肉ときて……次は何だ?そろそろ、持つのがつらくなってきてるんだけど……。
「次は……そうだわ、パンも買っておきましょう。すぐそこに美味しい店があるのよ。すぐに買ってくるから少し待っててね」
「あ、はい!」
あの体格からは想像できない軽やかさで少し離れたところの店に入っていくヘカティさんを見送り、俺は通りで人が行き交う様子を眺めて待つ。
ヘカティさんの様な大柄な人。ツバキさんの様な角を持つ人。獣の様な耳を持つ人。そもそも獣の様な見た目の人。背に翼を持つ人……俺と同じ特に特徴の無い人まで、本当に色々な人々がそこにいた。
……なんだろうな……すげぇファンタジーだって感じと、普通だなって感覚が俺の中でぶつかってる。
すこし、気持ちが悪いな……人込みに酔ったか……?
「これはこれは!?なんだね君は!?」
「え?な、なんだ?」
ボケっとしていた俺に、突然男が話かけてきた。
ぱっと見て仕立ての良い服をピシッと着ていて、商人……いや、それよりは貴族って感じの男だった。
前のめりに俺を観察するように近づく姿の影で、こちらに鋭い目線を送る護衛らしき人もいた。
「『なんだ?』とは、よくないねぇ。ほら、しっかり見給えよ。どう見ても貴族だろう?貴族様だ。いやいやいやまぁまぁまぁまぁ、ワタクシはこれでも心は広いからね。そんなことで怒りはしないけどね?しかし、しかしだね、口の利き方は気を付けるべきでないかな?と思うのだよ」
な、なんだ?めっちゃ喋るなこの人……
いやまぁ…確かに今の俺は奴隷で相手は貴族──らしいから、ここは出来るだけ丁寧に、かつ下手に出た方がいいか……。
「すみませんでした……」
とりあえず片膝をついて頭を下げて謝罪する。
もっと、土下座とかした方が良かったのだろうか?
「ふむふむ……まぁまぁまぁよしとしようじゃないか。次からは気をつけるんだよ?そんなことよりもだね、質問に答えて欲しいんだけどね?君は何なのかな?」
「え…と…すみません、『何』とはどういう……?」
「むむむむむむむ?もしかしてわかっていない?自分が何なのかわからない?」
ドキリっとした。
この人は、俺が何かおかしいと、そう感じてこんな事を聞いているのか……?
「あれあれあれあれあれ?本当にわかっていないって反応だね?ふーん?……そういえば髪が同じ黒……なにか────」
「何をしておられるのか!」
怒号と呼べるほどの声で男の話を遮ったのは、眉間に皺をよせた鬼のような形相をしたヘカティさんだった。
「……おや、ヘカトンケイルじゃないか!いやいや久しぶりだねぇ」
「……ガゼル君、こっちへ来なさい。スラヴァーリア伯爵、彼に一体何をされていたのですか?」
傍に移動した俺を庇う様に貴族の男と対峙するヘカティさんは、かなり緊張した様子でこれまでとは別人かと思う程厳しい顔をしていた。
「相変わらずワタクシは嫌われているね?しかし彼も君の関係者かぁ……鬼姫といい、どうしてこう面白そうなのに限って手に入れられないのかなぁ。残念、残念だなぁ……ま、仕方ない。その腕で殴られない内に退散するよ」
手を振って『じゃあねぇ~』なんて言いながら、貴族の男は去っていった。
護衛は最後まで無口なまま、男の後に続いていく。
人混みにまぎれ、姿が完全に見えなくなってようやく緊張を解いたヘカティさんが大きく息を吐いていた。
ヘカティさんがこんな風に……あの男、そんなにヤバい奴だったのか?
「大丈夫?なにもされてないわよね?」
「あ、はい。大丈夫です」
「なら、よかったわ。……とりあえず、一度帰りましょうか。アイツが来てるってツバキにも言っておかないといけないし……」
「アイツって、今の貴族みたいなヤツの事ですよね?そんなにヤバい奴なんですか?」
「詳しくは帰ってから、ね?」
そう言われては今は黙るしかないか。
男に言われた事を思い出す。
『君は何なのかな?』
……俺は、一体何なんだろうな……。




