11話 これから
「痛っ……」
「かなり無茶な殴り方をしたみたいね」
あれから俺達は、ツバキさんに連れられて小さな喫茶店に来ていた。
……ランタは、商会の奴らに任せた。
店主のヘカトンケイルさんが治癒術という魔法を使えるらしく、俺とウィステリアの怪我を見てもらっていた。
「すまないな、ヘカティ」
「このぐらい、お安い御用よ。気にしないで」
ヘカトンケイルさんはかなりの巨漢で、腕が四本もあった。その姿にも少し戸惑ったが、なにより物腰柔らかな雰囲気と態度に驚いた。
「はい、おわり。明日には痛みも引くけど、三日は無理させちゃダメよ?」
「ありがとうございます。ヘカトンケイルさん」
「いいのよ。貴女がウィステリアちゃんね?私のことは親しみを込めて、ヘカティって呼んでね」
そう言ってウィンクするヘカティさん。
ほんと、愛嬌がすごいな。
「次は貴方ね。こっちへいらっしゃい」
「よろしくお願いします」
ツバキさんに棒で叩かれた所を診てもらう。
「……少しあざになってるけど、大丈夫ね。これなら私の治癒術もいらないわ」
「そうですか」
まぁ、実際ほとんど痛みもなくなってたしな。
「……あの強さで叩いてその程度か。頑丈とは聞いていたが……なんなんだ?お前」
「いやあ……それが自分でもさっぱり……」
自分が頑丈だってことも、言われるまでわからなかったし……。
「……やっぱり、神様なんですか?」
「神様?」
ウィステリアがツバキさんに俺が現れた時のことを話してくれる。
なんか、現れた時すごい威圧感があったらしいが……なにそれ……。
「ふーん……戦いの神ねぇ……?」
「うーん、何度聞いてもピンとこないな」
俺は、一体何者なんだろうな……。
「ま、考えてもわからないことは置いておこう。それより、これからの話をしようか」
「ならお茶を淹れてくるわね。ウィステリアちゃん、手伝ってくれるかしら?」
「あ、はい……」
「悪いな、ヘカティ」
「いいのよ。お菓子も用意するから、少し待っててね」
そう言ってヘカティさんはウィステリアと厨房へ、テーブルには俺とツバキさんが残された。
「さて、今のうちに君の解放条件を話しておこうか」
「……ああ。確か、俺とウィステリアを買った額を返したら……だったよな?」
「そうだ。これと同じ金貨を二百五十枚。それが君が自由を手にするための額だ」
そう言って、ツバキさんはテーブルに金貨を一枚置いて見せてくれた。
「これはこの辺りで広く使われてる共通金貨だ。一枚あれば七日から十日程は暮らせる」
「それを、二百五十枚──か……」
しっかりと理解した訳じゃないが、かなりの大金だということはわかった。
「それまでは、俺とウィステリアはツバキさんの奴隷ってことか……」
「言っておくけど、かなりの好待遇だからな?本来、後ろ盾の無い虜囚奴隷なんて、どんな扱いをされるかわかったもんじゃない。しかも、解放されるかも怪しい」
「奴隷の種類なんて言われてもな……」
言葉の感じから、なんとなくはわかるけど。
「そうだ、確認しておきたい事がある。ウィステリアの両親について何か知っているか?」
「………それは……」
殺された。
そう、言っていたのを覚えてる。だけど、それを俺が言っていいのだろうか……。
「……なるほど。……あの商会に売られたって情報の中に、あの娘の両親については何も無かった。やはり、既に亡くなっていたか……」
「…………殺された、と……」
「そうか……」
ウィステリアは、一体いつからあそこで一人きりだったんだろうか……
「私は、あの娘の兄と知り合いでね。行方不明の家族を探してくれと頼まれてたんだ」
「え?」
兄って……ウィステリアにはまだ家族が居るってことか?!
「おまたせ〜♪少し良い紅茶を淹れたわよ。お茶請けには特製の手作りクッキーを持ってきたわ」
「お待たせしました」
おっと、二人が戻って来たようだ。
「ありがとう。良い香りだ」
「ありがとうございます。ウィステリアもありがとな」
「いえ……」
言葉は少ない。けれど、あの小屋では見られなかったウィステリアの微笑みが、今はあった。




