ジュドー視点2
Side : ジュドー皇太子殿下
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一番最初のループする前のジュドー皇太子殿下視点のお話になります。
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エレノア・オールファーワン侯爵令嬢。
それが私の婚約者の名前だ。
初めて、エレノア嬢に会ったときは、私はまだ5歳だった。
将来のお嫁さんですよと、母上からエレノア嬢を紹介されたときは、あまりの衝撃に大きく目を開いたものだ。
いきなり婚約者ができたことと、エレノア嬢があまりに洗練された美しさを持っておりまるでこの国が崇拝する女神様のようだと思ったのだ。幼女に対して女神様のようだと思うのは今になってみるとおかしいと思うが、あのときはエレノア嬢が本当に女神様のように思えたのだ。
正直なところ、私はエレノア嬢が婚約者であることに歓喜した。
「エレノア・オールフォーワンと申します。以後お見知りおきを。」
まだ子供だと言うのに、礼儀正しくカーテシーを決めるエレノア嬢。その姿はとても愛らしかった。
ポーっと頬を赤らめながら、エレノア嬢のことを見つめていると母上が頭上でクスクスと笑い出したほどだ。
「ジュドーだ。これからよろしく頼む。」
なんて、ぶっきらぼうに私は言った。
「はい。よろしくお願いいたします。」
エレノア嬢は私のぶっきらぼうな対応にも怖気づくことなく、礼儀ただしく笑みを浮かべながらそう言った。
この時の私は、エレノア嬢のことを将来皇太子妃になるにふさわしい女の子だと認識をしていた。
けれど、エレノア嬢と会うたびにエレノア嬢が無理をしていることに気づいた。
「ジュドー殿下。ごきげんよう。」
どこかぎこちない笑みで微笑むエレノア嬢。
最初は緊張のためかと思っていたが、何度会っても同じようにぎこちない笑みに、少しだけ固い言い回しが気になった。
少し調べてみるとエレノア嬢は皇太子妃になるために朝から晩まで家庭教師が勉強を教えていると聞いた。きっと、勉強のしすぎで粗相をしないか、手順を間違えないかと常に気を張っているのだろうと思うようになった。
おそらく、エレノア嬢はとても繊細な女の子なんだろうと感じた。
「エレノア嬢。皇太子妃になるのは苦痛かな?」
エレノア嬢に、直接そんなことを聞いてみたことがあった。
あまりに直球すぎる質問にエレノア嬢はしばらく笑みを貼り付けたまま身体を硬直させた。そして、しばらくののち、恐る恐る口を開いた。
「苦痛など思ってもおりません。」
そう固い口調でエレノア嬢は言った。
言葉とは裏腹にエレノア嬢の笑みは引きつっており、この言葉は彼女の両親や家庭教師が言わせているのだろうなと思った。まだ、幼いのに自由に発言することも許されていないのだと、エレノア嬢のことを不憫に思った物だ。
「エレノア嬢はどのような女性になりたいのかな?」
「……皇太子妃になるように教育されております。」
エレノア嬢は、周囲からの圧力で自分の意見すらも言えない状態に陥っているようだ。
皇太子である私の手前、そのような回答しかできなかったのかもしれないが。
ただ、私は不安だった。
女神様のようなエレノア嬢が、自分という自我を押し殺してまで皇太子妃になろうとしていることが。
私はエレノア嬢に自由に生きて欲しかったのだ。
確かに、エレノア嬢に傍で支えていてほしいという思いはある。
けれど、自分を押し殺してまで無理に私の傍にいてほしいとは思えない。エレノア嬢だからこそ。
エレノア嬢はとても繊細で、とても優しく真面目な女性だ。
そんな人が皇太子妃として矢面に立つ。それがどれだけ彼女に精神的な負荷をかけるかと思ったら、とてもではないが、彼女を皇太子妃にすることはできなかった。
私は、エレノア嬢に心から笑ってほしいんだ。
だから、私は18歳の時決心をした。
「父上、母上。大切なお話があります。」
公務があり、朝食をとる時間はバラバラだが、夕食の時間は父上と母上と揃って食事をすることが日課となっている。
食事中の会談はマナー違反だと言われているので、全員が夕食を食べ終わった後に私は父上と母上に切り出した。
「ジュドー。なにかあったのか。」
父上が、私の方を見ながら興味深そうに尋ねた。
母上は目を大きく何度か瞬きをさせて私と父上を交互にみている。
私は大きく息を吸い込み、一度吐き出してから続ける。
「エレノア・オールフォーワン侯爵令嬢との婚約をなかったことにさせていただきたいと思っております。」
淀みなく父上と母上に告げると、二人の目が大きく見開かれた。
父上は普段とても冷静だが、さすがの私のこの発言にはとても驚かれたようだ。
「エレノア嬢のどこが不満なんだ?」
「そ、そうよ。あれほどエレノア嬢と仲良さげなのに急にどうしたの?ジュドー。」
父上と母上がおろおろとしながら問いかけてくる。
父上も母上もエレノア嬢のことはとても気に入っている。
皇太子妃としての勉強に毎日真剣に取り組んでいるエレノア嬢のことを二人ともとても好意的に受け取っているのだ。
もしかすると私よりも父上と母上の方が、エレノア嬢が皇太子妃としてやってくるのを心待ちにしていたのかもしれない。
「このような時期に大変申し訳ありません。ですが、私はエレノア嬢のことを考えたうえで、彼女以外の人を皇太子妃として迎えたいと思っております。」
本当は隣に立つのはエレノア嬢が良い。
だが、彼女が皇太子妃として私の隣に立てば気を病んでしまうことだろう。
そんな危うさが今から透けて見える。
大切な彼女だから、皇太子妃ではなく一人の女性として自由に生きてほしいと思ったのだ。
「なにが不満なのかしら?エレノア嬢はとても真面目で常にこの国のことを思ってくれている。エレノア嬢以外に、皇太子妃に相応しい人物はいないわ。」
「そうだぞ、ジュドー。確かに、現オールフォーワン侯爵はギャンブル好きであちこちに借金を作っているとは聞いているが、エレノア嬢はとても優秀でまじめではないか。なにがそんなに不安なんだ。」
確かにオールフォーワン侯爵はギャンブル好きで有名だ。借金もあちこちに作っていると聞く。
そのような家の娘を皇太子妃として選んでいいのかという思いはあるが、同年代の令嬢でエレノア嬢よりも皇太子妃として優れていると思う人物がいないのだ。
「真面目だからです。彼女は皇太子妃になろうとして無理をしている。私にはそう見えて仕方がないのです。」
私は今までエレノア嬢と接してきた際に思ったことを父上と母上に告げる。
「むっ。」
「まあっ。」
父上も母上も多少は同じように思っていたのか、そっと目を伏せた。
「彼女には幸せになってもらいたいんです。そのためには、彼女は皇太子妃になんてならない方がいい。ごくごく普通の貴族女性として生きた方が彼女は幸せになれるはずなんです。」
父上と母上を説得しようと次々と言葉を並べる。
これもすべてはエレノア嬢のため。
「……そうだな。わかった。エレノア嬢のことは惜しいが、エレノア嬢を皇太子妃として縛り付けたいわけじゃあない。」
「ええ、そうね。そうよね。ちょっと残念だけれども。仕方ないわね。」
「ありがとうございますっ!!」
父上も母上も、私の熱心な説得に惜しみながらも折れてくれた。
これでエレノア嬢は、皇太子妃ではなく一人の侯爵令嬢として幸せに過ごすことができる。私は心からそう思った。
余計なお世話かもしれないけれど、エレノア嬢にはエレノア嬢が伸び伸びと過ごせるだろうと思われる相手を紹介しようとまで考えていた。
けれど、私のこの考えは非常に甘いものだったとこのあと突きつけられることになった。




