ジュドー視点1
番外編:Side:ジュドー皇太子
「私はいったい何を間違えたのだろうか。」
自室のソファーにもたれかかりながら、私は祈るように腕を組んだ。
見上げた先には豪華なシャンデリアが煌々と輝いている。
私はまた間違えたというのに、このシャンデリアは何も変わることなくいつも輝いて皇太子という呪縛に捕らわれた私を照らしている。
「また、エレノアを助けることができなかった……。まだなにかが足りない……。なにが足りないんだ……。」
エレノア・オールフォーワン侯爵令嬢は、私の婚約者だった。
幼い頃から約束された婚約者。
幼いながらも皇太子妃になるための英才教育を施されてきた哀れな娘。
最初は笑顔すらも作り物めいていて、苦手な存在だったが、いつしかひたむきに皇太子妃となる勉強をする姿に惹かれていった。
だが、私は気づいていた。
エレノアは努力をしてはいるが、皇太子妃となる器ではないことに。
だから、一回目はエレノアを皇太子妃として迎えいれなかったのだ。
ただ幸せになって欲しかっただけ。誰よりも人生を犠牲にしてまで頑張ってきたエレノアに幸せになってほしかっただけ。だから、皇太子妃としてではなくただの侯爵令嬢として幸せになってほしかった。
だから、一回目はエレノアの手を手放したというのに、なのに、運命は残酷もエレノアの命を奪ってしまった。
皇太子妃になれなかったことを彼女の家族が酷く非難したためだ。家族からの非難に耐えきれずエレノアは自ら死を選んでしまった。
それならばと、今回はエレノアを皇太子妃として迎え入れることにした。そうすれば、家族から非難されることもなくエレノアも皇太子妃として何不自由なく生きていけるだろうと無能な私は思ってしまった。
いや、それ以上にエレノアを手にいれることができることが嬉しかったのかもしれない。
けれど、現実は私はまたエレノアを苦しめてしまっていただけだった。
「すまない……。」
後悔の言葉だけが私の口から漏れ出る。
何度繰り返せばエレノアは幸せになれるのだろうか。
なにをどうすればエレノアは幸せになれるのだろうか。
何度考えても迷路の突き当たりにぶつかってしまう。
今回は私の手の中にいたのだ。
なのに、私は執務にばかり気を取られてしまい、エレノアの「大丈夫です」という言葉を鵜呑みにしてしまっていた。
もっと彼女の表情を見ていれば、もっと彼女と言葉を交わしていれば。
後悔ばかりが後から後から湧き上がってくる。
「私が側に居ない方が幸せだと思ったんだ。君は皇太子妃として気負っていたから。私が側にいることで余計に皇太子妃として正しくあらねばならないと思ってしまうのではないかと思ったから……。」
何度目かわからない懺悔の言葉が口からこぼれ落ちる。
私はゆっくりとグラスに注がれた真っ赤なワインを口に含んだ。
ゆっくりと口の中でその苦い味を噛みしめる。吐き出したいほどに苦いワインを無理矢理飲み込むと、しばらくして耐えられないほどの痛みと吐き気が襲ってきた。
「ははっ。またか……。」
吐き気に耐えきれずに、その場でえづいてしまう。
下品だろうが仕方が無い。耐えきれるようなものではないのだから。
真っ白な大理石の床に私の身体から流れ出した深紅が広がる。
「ぐっ……。」
そのまま痛みと苦しさにのたうち回りながら深紅の上に倒れ込む。
誰だ……。
誰が……。
答えはわかっている。
きっとエレノアのことを慕っている誰かの所為だ。
オフィーリア嬢ではない。
オフィーリア嬢はただただ守られて育った存在。無知で無垢で臆病なだけの存在だ。このような酷いことは考えられるような性格ではないことを私は知っている。
「ははっ……。」
大理石の床に寝転がりながら乾いた笑いが口からでる。
誰でも構わない。
結局はエレノアがいなくなってしまったのだから。
私の世界の色は消えてしまったのだから。
ここから先は真っ白な世界。
だから、私もエレノアの後を追うのも悪くはない。そうして、また繰り返して、今度こそはエレノアを救おうと決意してから回ってそして、また繰り返す。
何度繰り返せばエレノアは生きていてくれるのか。終わりのない無限ループの中に放り込まれたような気分だ。
だが、少しだけ希望が見えたのも確かだ。
前回とはオフィーリア嬢の態度が少しだけ変わったのだ。まだ、彼女はエレノアに負荷をかけていたが、彼女はエレノアのことを虐めなくなっていた。エレノアのことを無知ながらも必死に姉として慕っていた。
それだけが変わっていた。
いったいなにが彼女におきたのかはわからない。けれど、このループを抜け出すにはオフィーリア嬢がキーなのではないかと思えた。
だが、しかし。今回はエレノアを救えなかった。次回があるとは限らない。そして、もし次回があったとしても、必ずエレノアを助けることが出来るとは限らない。けれど、次回があるのならば、今度こそエレノアに幸せになってもらいたい。
今回の反省を次には必ず活かして、少しでもエレノアが幸せになれるように願わずにはいられなかった。
「ジュドー殿下。おいでですか?」
意識が朦朧とする中で控えめにドアがノックされた。
誰だろうか、考える前にドアが開いて誰かが入ってきた。
目も霞んでおり、人影しかわからない。男か女かも判断ができないほどに視界は狭まっていた。
人影は血を吐いて倒れている私に驚くこともなく、軽やかに私の元にたどり着く。
そうして、私が飲んでいたワイングラスを床から拾い上げた。
感慨深そうにワイングラスを見つめた人影は張り詰めていた息を吐き出した。
「ああ。今回もあなた様は飲んでしまわれましたか。」
どこか無機質な声があたりに悲しく響いた。




