単位ってなんだっけ…? -1
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基礎講習のテストをすべて終えたルネアは、ラウンジの一席で、単位数が表示された魔道具と睨めっこをしていた。
カフェテリアで購入した紅茶を片手に、残りの単位をどう取得していくべきか思案する。
編入生であっても、進級に必要な単位は通常と同じく百単位だ。しかし編入という立場上、通常の生徒よりも不利なのは否めない。
そのため救済措置として、一部の科目では予約が優先される仕組みになっている。とはいえ、それらをすべて合格しなければ意味はなく、内容も厳しく精査されるため、決して楽なものではなかった。
しかし、ルネアは、ヘリアデスの指導のもと、わずか二週間という短期間で基礎課程を叩き込まれている。
こうしたロールプレイに慣れていたこともあってか、あるいは単純な適性か。学園に入ってからも大きくつまずくことなく、ここまで進んでこられた。
もっとも、リリアンの存在が大きかったのは言うまでもないが。
それでも、必要単位は百。基礎講習をすべてクリアして、ようやく五十。まだ半分だ。残りを埋めるには、あと三百日ほどしかない。その全ての日数を課題にあてることもできないのだから悩ましい。
(――どう考えても、時間が足りない……。)
ルネアは小さく息を吐き、魔道具の表示を見つめ直した。
(編入が遅い分、もう少し融通してくれてもいいのに……。)
内心で小さく愚痴を零しながら、ルネアはため息をつく。
さて、どのように単位を効率よく取得していこうか、と考えながら、魔道具に表示された分類へと視線を落とした。
単位は五つの大分類に分かれており、学術、社交、実務、技能、特別とある。
学術は、政治や経済、歴史、魔法理論といった分野だ。
社交は、礼儀作法やお茶会、対人関係の構築など、いわゆる貴族としての基礎能力。令嬢にとっては必須の分野だが――ルネアにとっては、最も厄介な分類でもある。
実務は、経営や交渉、商業、領地運営といった実利的な内容が中心だ。本来は令息向けの分野らしく、令嬢が積極的に選ぶことは少ないようだが――だからこそ、ルネアにとっては狙い目でもある。
技能は、その名の通り。剣術や魔術、芸術、音楽、乗馬などが含まれており、比較的分かりやすい。ルネアにとっては最も単位を稼ぎやすい分野だ。病弱設定さえなければ、ルネアは無双していたに違いなかった。
そして、特別単位。これは大会での成績や、商業・研究などを通じて国に貢献したと認められた場合に付与されるものだ。狙って取れるものではなく、計画に組み込むのは難しい。
さらに特別部では、主専攻と副専攻を選ぶことで、単位取得の幅が広がる。
先ほどの五分類はあくまで基礎の範囲を出ない。専攻を定めることで、より専門的な研究や実験に踏み込むことができ、その成果が単位として認められる仕組みだ。
多くの特別部生は、この方法で単位を取り切るらしい。だが、ルネアにとっては魔法使いとして、高度な魔法を使いこなす。といった荒業しか思いつかない。
通常の学生であれば扱えないような魔法でも、冒険者であるルネアにとっては、そこまで難しい話ではない。勿論スキルとして覚えてしまえば、だが。
(やっぱり、副専攻は魔法薬学にして……そこから商業に繋げて売る?)
ポーション作成を趣味とするルネアは、冒険者としてだけでなく、「薬師:調合師」という職も持っている。つまり、一般の学生たちよりも一歩抜きん出た技量を有しているということだ。
これまで長い時間をかけて採取と調合を繰り返してきた経験を考えれば、最も適した選択と言えるだろう。
それに、システムを活用すれば調合工程の効率化も可能だ。成果をレポートとして提出する際にも、大きな強みになる。
「よっし……!」
意気込みが、つい口から漏れ出たところに背後から声がかかる。かけられた声に、ルネアは内心で小さく肩を落とした。
「やあ、ルネア嬢。こんにちは。」
(また……?)
最近、やけに遭遇率が高い第二王子だ。
ルネアはすぐに気を引き締め、表情を整える。ゆっくりと立ち上がると、小さくカーテシーを取った。
「ごきげんよう、第二王子殿下。」
「今日は一人なのかい? 珍しいね。」
そう言いながら、彼は当然のように向かいの席へ腰を下ろすと、ルネアにも座るよう軽く促した。
離れたい衝動を必死に抑えつつ、ルネアも静かに席へ戻る。
もちろん、その感情を表に出すことはない。あくまでゆったりとした所作を崩さず、失敗しないように気を引き締めて第二王子の相手をする。
「そうでしたか……?」
「うん。君はいつも妹君と一緒にいるだろう?」
穏やかな口調でそう言いながら、第二王子はくすりと笑みを零し、ルネアの手元にある魔道具へと視線を落とした。
「あぁ、単位について考えていたんだね。」
「……ええ。編入して間もないものですから。」
「そうだね。それなのに、基礎講習をすべて好成績で単位を取り切ったと聞いたよ。さすがだね。」
「恐縮ですわ。」と流しながらルネアは、視線をそっと逸らす。
もしかしたら、病弱設定であるルネアがこれほど順調に単位を取得するのは不自然だっただろうか。と、そんな不安が胸をよぎり、わずかに目を伏せる。
「まぁ、ルナヴェイル辺境伯家のご令嬢としては当然……かな? 妹君も負けず劣らず優秀だと、噂で聞いているよ。」
一体どこからそんな噂を聞いて来ているのか、と内心で首を傾げるが、王族であればこうした細かな情報にも目を配っていて当然なのかもしれない。特に彼は、社交の場では群を抜いた存在なのだから。
「リリアンは……とても素晴らしい、特別な子ですから。」
リリアンを褒められて満更でもないルネアは、微笑みながら答えつつ、頭の中には「お姉さま!」と満面の笑みで飛び込んでくるリリアンの姿が浮かんでいた。
「本当に仲がいいんだね。性格は正反対に見えるのに、不思議と似ているよね。」
(……似ている?)
思わず首を傾げると、第二王子は楽しげに頷いた。
「行動に移す前に、じっと考えるところとか。突然子猫が飛びついてきても、あまり動揺しないところとか……それに、服が汚れても気にしない、少しお転婆なところとかね。」
どうやら揶揄われているらしいと察し、ルネアは目を伏せる。ここで反応しては、思う壺だ。
そう思った矢先。肩を震わせて笑い続ける第二王子の気配に気づき、思わずむすっとした表情で彼を見上げてしまう。
「そういうところだよ。本当に、可愛らしいね。」
言い返したい気持ちは山ほどある。だが、ここで王族に楯突くような振る舞いはできない。今は、ルナヴェイル辺境伯家の令嬢なのだから。
ルネアは小さく息を飲み込み、その感情を胸の内へと押し込めた。
「そういえば、単位の話だったね。ルネア嬢は魔法専攻だろう? 魔法学研究や魔法陣構築理論とか、手段はありそうだけど、短期間で効率よく単位を稼ぐなら――やっぱり、あれかな。」
(……あれ?)
思わず顔を上げると、視線が合う。すると第二王子は、また楽しげに笑みを浮かべながら人差し指を一本立てた。
「魔術大会や狩猟大会だね。時期的にも、ちょうど近いはずだ。君の実力なら、十分通用すると思うけど?」
「魔術大会……ですか。それは少し、リリアンに心配をかけてしまいそうですね。」
おっとりとした口調で頬に手を当て、悩ましげに瞳を伏せる。すると第二王子は、すぐにその意図を察したように「ああ」と小さく声を漏らした。
「そういえば、体が弱いんだったね。もうだいぶ良くなったと聞いているけど、まだ本調子ではないのかな?」
「そうですね……まだ無理はしないようにと、厳命されておりまして。出場には許可を得る必要がありそうです。」
(――主に、ルシアンにだけど。)
内心で付け加えつつ、ルネアは静かに思考を巡らせる。
仮に大会へ出場するにしても、今から参加資格を得られるのかは怪しい。編入生への救済措置として認められる可能性はあるが、やはり引っかかるのは“病弱”という設定だ。
すでに回復しているとはいえ、短期間でここまで動けるようになるのは不自然に映るだろう。
それに、その設定のお陰で常にリリアンが傍にいてくれるし、厄介なお茶会への招待も断りやすくて助かっているのだから、手放しがたい。
次回:単位ってなんだっけ…? -2
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