授業ってなんだっけ…? -2
毎週、月曜日と金曜日に更新中!
ルネアが次に訪れたのは、「社交術・礼儀作法」の授業が行われる教室だった。
扉を開けて中へ入ると、見慣れた顔が目に入る。思わずほっと息をつき、そのまま彼女のもとへと歩み寄る。
「リリアン、あなたも受けるのね。」
「お姉さま!」
ぱっと立ち上がったリリアンの表情は、見るからに明るく輝いている。嬉しそうに微笑みながら、隣の席へと手で示した。ルネアはその好意に甘え、隣へ腰を下ろす。
「お姉さまが予約なさったから、私も同じ授業を受けることにしたんです。ちょうど時間も空いておりましたから。」
「そうなのね。あなたがいると、心強いわ。」
微笑みながら、ルネアは内心で拝み倒す。
リリアンは、おそらく講義予約のリストを確認したのだろう。学園で配布される魔道具の一つには、単位数の確認や授業の予約ができる便利な機能が備わっている。さらに、各授業の予約人数や受講者の一覧まで確認できる仕組みだ。
その意図も、なんとなく察しはついている。プレイヤーが好意を持つキャラクターと同じ授業を選び、自然に出会えるようにするためのものだろう。
――とはいえ、今回はそれが思わぬ形で役立っている。リリアンはその機能を使い、ルネアと同じ授業を選んでくれたのだ。
とはいえ、膨大な授業数の中からどうやって見つけ出したのかは、謎のままだが。
「そう言っていただけると、頑張った甲斐がありますわ。」
花が咲くような愛らしい笑みに、ルネアは一つ心を決めた。
「今度から、私が予約した授業をあなたにも共有するわね。確か……魔道具で送れるはずだもの。」
この魔道具は、同じ時間帯の授業を取りやすくするために、簡単なメッセージのやり取りも可能になっている。
少しでもリリアンの負担を減らしたい――そう考えながら、ルネアはにこりと微笑んだ。
「まぁ……ありがとうございます、お姉さま。とても嬉しいですわ。」
愛らしい笑顔がさらに花開くように広がり、ルネアは思わず頬を緩める。
その時、教室の扉が静かに開き、教師が姿を現した。すでに室内は静まり返っており、視線は一斉にその人物へと向けられる。
「皆様、ごきげんよう。本日は礼儀作法のテストを行います。中等部の方々は、高等部や特別部の皆様の言動をよく観察し、学びなさい。それでは始めましょう。特別部の生徒は前へ。」
教室前方には一段高いステージがあり、その中央にテーブルが置かれている。周囲には半円を描くように五脚の椅子が並んでいた。
ルネアはリリアンと共に、ゆったりとした所作を意識しながら椅子の横へと立つ。選んだ席は、上座から二つ横。隣には当然のようにリリアンが並び、穏やかな笑みを浮かべながら周囲を観察していた。
やや遅れて到着した二人の令嬢が上座の席へと向かい、ルネアたちへと微笑みを向ける。主催席に着いた令嬢が、柔らかく声をかけた。
「どうぞ、お掛けになって。ごゆっくりなさってくださいませ。」
それに応じるのは、上座に座る令嬢の役目――すなわち、ルネアの隣に立つ令嬢だ。
「おもてなし、感謝いたしますわ。」
優雅に微笑んだ彼女は、一瞬だけルネアへ視線を送り、小さく頷いた。もう座っても構わないという合図である。
ルネアはそれに従い、「失礼いたします」と微笑みを添え、小さくカーテシーを取ってから席へと腰を下ろした。
椅子の半分にも満たない位置に腰掛け、背筋は真っ直ぐに伸ばす。肩の力は抜きつつ、顔を上げ顎をわずかに引く。口元には絶やさぬ微笑みを添えながらも、指先に至るまで意識を巡らせ、美しい所作を保つ。
全員が着席すると、主催の令嬢がゆるやかにティーカップへ手を伸ばした。
一口含み、静かにソーサーへと戻す。その一連の動作が合図となり、他の令嬢たちも順にカップへ手を伸ばす。ルネアも同様に、一口だけ口に含む。
続いて、主催は茶菓子へと手を伸ばしながら、菓子の由来や茶葉の種類、さらには装飾品の話題へと自然に話を広げていった。
ルネアは微笑みながら合図を打ち、たまに小さく手を叩きながら「とっても素敵ですわね」と、うっとりとした表情で話を盛り上げる。
過度に語らず、かといって存在を消すこともない。場の空気を壊さず、自然に溶け込む――その絶妙な距離感のまま、時間は流れていった。
「はい、素晴らしいですわね。皆さま、合格です。」
満面の笑みで大袈裟に拍手を送ったマルグリット・ハーグレイブは、くるりと背を向けると、静かに見守っていた生徒たちへと解説を始めた。誰のどの所作が優れていたのかを、一つひとつ丁寧に拾い上げていく。
その中で何度かルネアの名も挙がったが、やはりリリアンへの称賛が多い。ルネアは内心で何度も頷きながら、その評価に耳を傾けていた。
勿論、全てが終わったからと言って気を抜くことはできない。この学園にいる限り、常に見られているのだから、気を引き締めていなければならない。
「姿勢。視線。呼吸。すべてが礼儀の一部ですよ。それでは次、高等部の皆さん前へ。……あら、少し人数が足りないわね。でしたら、特別部の方に協力していただきましょうか。そうねぇ――」
そう言って、マルグリットはゆっくりとこちらへ視線を向ける。
(できれば勘弁してほしい……。)
そう思っても、表情に出すわけにはいかない。隙を見せれば、どこからどう評価されるか分からないのがこの場だ。それに何より、それは貴族令嬢らしくない。
微笑みを保ったまま、その言葉を待っていると――リリアンがすっと手を挙げた。
「はい、先生。ぜひご協力させてください。」
愛らしい笑顔を浮かべたまま歩み寄るリリアンに、マルグリットは嬉しそうに頷く。
「ええ、ではリリアン・ルナヴェイルさんにお願いしましょう。そうね……主催役を務めていただけるかしら。」
「承知いたしました。」
優雅に頷いたリリアンは、一度だけルネアの方を振り返り、にこりと微笑んだ。
指名が向かないよう、先に名乗り出てくれたのだろう。本当に、よくできた妹だ。愛らしさだけでなく、状況を読む賢さと気配り、そして確かな実力まで兼ね備えている。本当に欠点が見当たらない。
本来、特別部の生徒はテストが終わり次第、自由に解散して構わない。だがルネアは、その場に残ってリリアンを待つことにした。自分の代わりに名乗り出てくれたかもしれない以上、それは当然の選択だった。
ふと周囲を見渡せば、他の特別部生たちもまた、興味深そうにステージ上のリリアンへと視線を向けている。どうやら、注目されているのはルネアだけではないらしい。
ステージ上のリリアンは、まるで主役のように輝いていた。
ひいき目を抜きにしても、高等部生と彼女とでは身につけている技量が違うのだろう。戸惑いを見せる生徒たちをさりげなく導きながら、場の流れを崩すことなく進行していく。
何人か、ルネアの目から見てもまだ未熟な生徒はいた。それでもリリアンは上手く手を差し伸べ、場を整えながら、無事にお茶会を終わらせた。
「さすが、リリアン・ルナヴェイルさん。本当に見事でしたわ。実際に体験した皆様も、彼女の手腕をよく理解できたことでしょう。特別部だから優れているのではなく、こうした技術をしっかり身につけているからこそ、特別部に在籍しているのです。皆様も、これから一層励みなさい。」
マルグリットは満足げに頷きながらリリアンを称え、そのまま生徒たちへと激励を送る。
その後、数名の令嬢へ補講を命じると、次は中等部の番へと移っていった。
人数は足りているように見えるが、ここに留まっていればまた手伝いを頼まれる可能性もある。ルネアとリリアンは顔を見合わせ、小さく頷き合うと、そのまま静かに教室を後にした。
「リリアン、とても素敵だったわ。私も学ぶことが多い授業だったわね。」
「お姉さまこそ、素晴らしかったですわ。私もお姉さまのように周りを支えられるよう努めましたが……まだ少し難しいですわね。」
ふふ、と笑みをこぼしながら廊下を歩いていると、正面からきらきらとした笑顔を浮かべた第二王子が現れた。
思わず体が強張る。その変化に、ルネアの腕に手を添えていたリリアンはすぐに気づいたらしい。相手が誰なのかも察したのだろう。
リリアンは静かに腕を離すと、一歩前へ出て、優雅にカーテシーを披露する。
「ごきげんよう、第二王子殿下。」
その美しい所作に続き、ルネアもまた倣うように礼を取る。すると第二王子はにこりと微笑み、足を止めた。
「ああ、ルナヴェイル令嬢方、こんにちは。礼儀作法のテストは、もう終わってしまったのかな?」
「ええ、私どもの番はつい先ほど終了いたしましたが、まだ中では授業が続いております。」
「そうか、それは残念だ。君たちの実力を見てみたかったのだが……少し遅れてしまったようだね。」
困ったように眉を下げながらも、どこか楽しげに笑う第二王子。その視線が、ふとルネアへと向けられる。
「そういえば、例の……君に会いたがっていたよ。今度、お茶会に招待してもいいかな?」
その言葉に、ルネアはわずかに肩を震わせた。
例のとは、おそらく、あの子猫のことだろう。確かにルネアも気になってはいた。だが同時に、まだリリアンへその件を話していなかったことを思い出す。
ルネアは一瞬だけ思考を巡らせ――そのまま、穏やかな微笑みを浮かべた。
「まぁ、あの子猫が私に? とても嬉しいですわ。」
「……子猫? お姉さま、何かあったのですか?」
リリアンがすかさず会話に加わるのを見て、ルネアは微笑みながら、あの日の出来事を簡単に説明する。
話を聞き終えたリリアンは、ぱっと表情を明るくし、楽しそうに頬を染めた。
「まぁ……ぜひご一緒したいですわ。」
どうやら彼女は動物が好きらしい。愛らしい小動物はもちろん、逞しい動物まで幅広く好むようだ。その意外な一面に、ルネアは微笑みながら頷き、改めて第二王子へと視線を向ける。
「この通り、リリアンは動物がとても好きなのです。ご一緒してもよろしいでしょうか?」
「……ああ、もちろんさ。今度、二人に招待状を送ろう。楽しみにしているよ。」
そう言って軽やかに去っていく第二王子の背を見送り、二人は顔を見合わせて小さくため息をつくのだった。
次回:単位ってなんだっけ…? -1
スタンプや評価、レビュー等とても励みになっています。
いつも本当にありがとうございます。
☆キャラクターメモ
―――――――――――――――
■ ディール・アッシュクロフト
・貴族学園 魔法学教師
・25歳/男性
・風・水属性を得意とする魔法使い
・めんどくさがり/怠慢気質
・やる時はやる天才肌
・実力は高く、応用力に優れる
・几帳面で面倒見が良い一面を持つ
・基本は関与を避けるが、必要時は問題解決に動く
―――――――――――――――
■ マルグリット・ハーグレイブ
・貴族学園 教師(社交術・礼儀作法)
・35歳/女性
・優雅だが明確で率直な物言い
・厳格/規律重視
・妥協を許さず、生徒に高い水準を求める
―――――――――――――――




