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静寂の森

 なるほど、それで私に護衛の依頼を出してくれたってわけだね」


「そう! 冒険者って言われて一番初めに思いついたのがダリアだったんだ!」


 ダリアは冒険者として一人前、として評されるプラチナランクに認定されている。アイアン、ブロンズ、シルバー、ゴールド、そしてプラチナ。冒険者として上から数えた方が早いほどの実力者で、辺境の街ローゼンの中では十本の指に入るとアイリスが言っていた。


「なら私は騎士として姫の信頼に答える事にしようか」


 ダリアは芝居がかった様にリラに跪く。幼い頃読んだ物語の騎士に影響されて以来、ダリアは常にこんな感じに振る舞っている。普通の人がダリアと同じように振る舞えば、痛々しさのあまり目を逸らしたくなるだろう。だがダリアの場合はその中性的な容姿のせいか妙に様になっている。


 ローゼンの東門を出て少し歩けば、見えてきたのは生い茂る森林、通称『静寂の森』。ローゼンの街から目と鼻の先にある事、あまり強大な魔物が出現しない事、等が理由で駆け出しの冒険者が多く訪れている。リラが目指しているのは『静寂の森』近辺を流れている清流だ。マーレによれば、『静寂の森』近辺が『清めの白草』の自生する場所として、最も適しているらしい。


「初めて街の外に出た気分はどうだい?」

「怖いけどちょっとワクワクしてる!」

「さながらお城を抜け出したお転婆姫様って所かな」

「分かる様な……分からない様な」


 和やかな雰囲気で森を進んでいく。森の中は外からの印象ほど薄暗くはなかった。木々の隙間から差す陽の光、土と緑が香る涼し気な風、踏みしめる度足に伝わる枯れ葉の感覚、その全てがリラの気分を高揚させていた。


 最初に感じていた緊張感をほとんど忘れそうになっていたその時、前を歩いていたダリアがさっと手を横に伸ばす。


 魔物を見つけた合図だ。

 柔和な笑みを浮かべていたダリアの表情が凛々しい戦士の物へと変わる。

 初めて見たダリアの顔に否応なしに緊張感が高まる。


「大丈夫、私に任せて」


 凛々しい表情はそのまま、リラに優しい言葉をかけてきた。そこでリラは初めてダリアの視線の先にいる魔物の姿を捉えた。


 ゴブリンだ。数は三体。尖った枝を携えてじりじりとにじり寄ってきている。


「《カマイタチ》」


 いつの間にか剣を構えていたダリアが、その細身の剣を振るう。その軌跡から風の刃が、ゴブリンめがけて放たれる。その刃がゴブリンの体を真っ二つに切り裂いた。


「この程度の相手に後れを取る私じゃないさ!」


 何が起こったのか分からず、ゴブリンが一瞬足を止めた。ダリアはその一瞬を見逃さなかった。足元の悪さを全く感じさせない滑る様な動きでゴブリンに詰め寄る。


「これで終わりだ!」


 距離を詰めたダリアが一薙ぎでゴブリンを倒す。それを見て最後の一体がダリアの背後を突こうとするも、冷静に余裕を持って躱した。その結果体勢を崩したゴブリンをダリアは冷静に切り捨てた。


「すごい……」


 危険な状況だと言うのに思わず魅入ってしまっていた。リラには冒険者の強さの尺度は分からないが、少なくともダリアの動きが生半可な物ではないと理解できた。これがプラチナランクの冒険者という事なのだろう。


「怪我は無いかい?」

「大丈夫、怪我一つしてないよ」

「なら良かった、それじゃ行こうか」


 ダリアはまるで何事も無かったかの様に振る舞っている。ダリアがゴブリンの死体を見せない様に視界を遮っているのにリラは気が付いていた。こういう言外の所でまで騎士然と振る舞うダリアの徹底ぶりを流石だと思った。


──イケメンで実家が太いプラチナランク以上の冒険者。

 目の前のダリアを改めてジッと見つめる。

 もういっそアイリスはダリアと結婚すればいいんじゃ……? なんて言ったらアイリスはどんな顔をするだろうか。


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