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清めの白草

「面白い考えだと思うわ」


 リラのアイデアを聞いたマーレがあくび交じりに答える。アイリスから依頼を受けた次の日、夜の間に思いついたアイデアをいち早く伝えたかったリラは朝一でマーレの元を訪ねた。リラが訪ねてくるまでは寝ていたらしく、マーレはほとんど目が開いていなかった。それでも嫌な顔一つせずに迎え入れ、アイデアを聞いてくれたのだ。


「それで……臭いを消すのに役立つ素材を知りたいって事ね」

「そうです! そうなんです!」


 詰め寄るリラの顔をマーレはズイっと遠ざける。そして薄暗い部屋の中でも場違いなくらいキラキラしている髪を耳にかけ、ティーカップを口に運ぶ。入っているのはリラが淹れた紅茶だ。


「清めの白草」


 たっぷり時間をかけてティーカップから口を離したマーレがボソっと口に出す。


「綺麗な水辺に生える《浄化の魔力》を持つ植物よ。基本的には呪病を解くのに使ったりする素材で、それこそ消臭目的で使うなんて聞いた事がないけれど、効果は間違いないと思うわ」

「う~ん、聞いた事がないやつだ……」

「そこまで量が必要になる素材じゃないし、流通はしてないから知らなくてもしょうがないわ。ちなみに錬金術に便利な素材の大半は流通していないわ」

「そんなぁ~……」


 やはり錬金術は一筋縄では行かなそうだ。どれだけ知識を身に着けたとしても、その知識が使えないんじゃしょうがない。素材をどうやって確保するか、という問題はこれから先ずっとついて回る事になりそうだ。リラはそれを考えて気が重くなっていた。


「せっかくあと少しって所まで来てたのに……」

「リラ、そんなに難しく考えなくていいのよ」

「どういう事ですか?」

「無いなら取ってくればいいのよ」

「そんなお遣い感覚で言わないで下さい! 外は魔物とかも出るんですよ⁉」


 街の外には魔物がいる。ゴブリンみたいな亜人種系の魔物、フォレストウルフの様な動物系の魔物、スライムの様な異業種系の魔物、その他魑魅魍魎。リラは小さい頃からローゼンの街の外に出た事がない。当然実際の魔物は目にした事はないが、魔物に対する恐怖は確かに存在している。『悪い子はゴブリンに連れていかれちゃうよ』という子供を叱る時の定番文句が未だにちょっと怖かったりする。


「戦いなら戦える人に任せちゃいなさいよ」

「戦える人って……、そっか! 冒険者?」

「正解」


 マーレが頭を撫でてくる。避けたらマーレは少ししゅんとしてしまうので、リラはされるがままにしている。


 リラの赤髪を思う存分にくしゃくしゃとしたマーレが、こほんと咳払いをする。


「錬金術師をやっていく上で、自分で素材を採取しなきゃいけない場面は今度も出てくると思うわ。その時のために冒険者と繋がりを作っておくのがいいかもしれないわね」

「それなら任せてください! とびっきり優秀な知り合いがいますから!」


 ダリアの顔が真っ先に思い浮かんだ。


「それは頼もしいわね。大事にするのよ」

「はい! それじゃ、早速冒険者ギルドに顔を出してきますね!」

「そうだリラ、ちょっと待って」


 今すぐにでも冒険者ギルドに向かおうとしていたリラをマーレは呼び止める。


「私もちょっと野暮用でしばらくローゼンから離れるから、覚えておいてね」


 思い出した様に告げるマーレ。マーレの言う野暮用が何なのか、リラは少し気になったが今はまだ聞くべき時ではない気がした。


 マーレはローゼンに来てから何かずっと調べものをしている。片づけをしている時に散乱していた資料をチラっと見た事があったのだが、何が書いてあるのか今のリラには全く理解できなかった。


「そういえばほとんど毎日マーレさんと会ってたから、しばらく会えなくなるのは寂しいですね……」

「そうね、私がいないからって無理しちゃダメよ?」

「……はい!」

「その間が気になるけど、まあいいわ。それじゃ行ってらっしゃい」

「マーレさんも気をつけて!」


 今度こそマーレの居宅を後にしようとする。しかし、再びマーレが思い出した様にリラを呼び止めた。

「そうそう、忘れていたわ。リラ!」


 今度は一体何なのか。リラが顔だけで振り返ると、苦笑いのマーレが目に入った。


「さすがに早朝から来るのはなるべくやめてね……?」

「……気を付けます」


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