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サンルーフから身を乗り出すウォードッグと、犬歯剥き出しの笑みで奴が構えブッ放すM60E6汎用機関銃から豪雨みたいな勢いで撃ち放たれる大口径のNATO規格7.62mm×51ライフル弾。後方から降り注ぐ大口径フルメタル・ジャケット弾頭の雨に打たれながら、その黒い防弾装甲のボディに何ヶ所も穴を穿たれつつ、しかしハリーは諦めることなくインプレッサを尚もフルスロットルで走らせ続けていた。
「ちぃぃぃっ!!」
右へ左へと激しく車を動かし、出来る限りの弾を避けていく。その最中で偶然居合わせた軽トラが不運にもウォードッグの放ったライフル弾に抉られ、運転席が血に染まるのが見えてしまった。
「くそっ……!」
失速する軽トラが使えないかと、軽くボディの端で小突いてスピンさせた軽トラを障害物に利用しようとしたハリーだったが、しかしクララは路肩のブロックを利用しアウディを片輪走行させ、迫り来る横向きの軽トラを紙一重で回避してしまう。
「嘘だろ……!?」
そんな曲芸じみたクララの芸当をバック・ミラー越しに目の当たりにしてしまえば、流石のハリーもこれには絶句する。
「何よ、クララってのはフランク・マーティンなワケぇっ!?」
とすれば、同じくサイド・ミラーでクララの片輪走行を見てしまった和葉が、信じられないといったような顔でそんなことを口走った。
「かもな……!」
そんな和葉に半ば適当な返しで頷きつつ、今の内にとハリーはアクセル・ペダルを底まで踏み抜いた。
しかし、再び四輪に着地したクララのアウディは未だ追ってきていて。ウォードッグが片輪走行の為に一度引っ込めていた身体を再びサンルーフから出せば、構えたM60E6から大口径ライフル弾の掃射が再開される。
ウォードッグの狙いは正確で、カンカンカンとまたトランクに弾頭が跳ね、そして何発かが貫通し侵入してくる。しかも不運なことに、その内二、三発ほどがインプレッサの燃料タンクを貫通してしまった。
「っ……!」
「ふふっ、チェック・メイトまであと一歩だね……」
燃料漏れに気付き顔を蒼くするハリーと、インプレッサから航跡のように尾を引いて流れ出る高オクタン価ガソリンの跡を見ながらほくそ笑むクララ。
(早めにカタを付けないと、マズい……!)
「和葉、ダッシュボードを捲れっ!」
そう思った瞬間、ハリーはほぼ無意識で隣の和葉に向かいそう叫んでいた。
「えっ!?」
「グローヴ・ボックスの裏から捲れる! いいから、早くしろっ!!」
「ああもう、分かったって!」
ワケも分からないままに和葉は自分の目の前、助手席のグローヴ・ボックスを開き、その裏に手を回すとダッシュボードのパネルをベリッと、文字通り捲ってみせた。
「ちょっと、これって……」
すると、本来エアバッグが収まる位置には空洞が出来ていて。そこに収められていたのは和葉にとっては見慣れない物、イタリア製のベレッタ・モデル12Sサブ・マシーンガンだった。
「和葉、それを寄越せっ!」
「寄越せって……どうするの!?」
和葉からモデル12Sを受け取りながら、ハリーは一瞬ステアリングから手を離し銃のコッキング・ハンドルを引く。オープン・ボルト式の動作なので、排莢口が口を開けているのが発砲可能な態勢なのだ。
「どうするって――――」
そのモデル12Sの銃把を右手で握ったまま、器用にステアリングも握り。そうしながらハリーはサイドブレーキを一気に引くと、
「――――こうするのさ!」
パワーウィンドウで助手席側の窓を開きつつ、ステアリングを放り投げるぐらいの勢いで右にブン回す。
「う、嘘でしょぉっ!?」
「伏せてろ!」
和葉が腰から丸まって伏せるよりも早く、バランスを崩したインプレッサがスピンを始める。そんな中、ハリーはサイドブレーキを戻した左手でステアリングを巧みに操作しつつ、右手を窓の外に伸ばしてモデル12Sを構えた。
スピンしながら、しかし思考は冷静なままで引鉄を引く。タンタンタンとフルオートでモデル12Sの銃口から9mmパラベラム拳銃弾が次々と撃ち放たれれば、それは正確に背後に迫るアウディの方へと殺到していく。
「っ――――」
五発は縦並び一直線にアウディのボンネットを跳ね、そして最後の一発がフロントガラスを貫通、クララの頭のすぐ傍を掠めると、コクピット・シートの革張りヘッドレストの端を浅く抉り飛ばした。あと少し狙いが逸れていたら、吹っ飛ばされていたのはクララの頭の方だった。
「やるね、ハリー……!」
至近距離にまで肉薄した弟子の一撃に、クララは小さく口角を釣り上げる。この状況下での反撃とこの精度、彼の師匠としては喜ばざるを得ない。
その間にも、インプレッサは三六〇度をぐるりと一周するようにスピンし終えていて。再び前方に向けて体勢を立て直せば、またスロットル全開で逃げ始める。
「チッ、あと少しで……!」
その後もハリーは腕だけを後ろに回してモデル12Sを弾切れまで撃ちまくっていたが、それ以上の弾がアウディに当たることは無かった。弾切れのモデル12Sを、軽い舌打ちを交えながら路上に投げ捨てパワーウィンドウを閉める。
「……和葉」
そして再び逃走にのみ神経を集中させながら、神妙な顔でハリーが隣の和葉に語り掛けた。
「な、何?」
「燃料タンクが貫通して、燃料漏れを起こしてる。この分だと、暫くもしない内にこの車は死ぬ……」
事実だった。現に、正面にあるメーターパネルにある燃料計の針は、異常なほどの速度でガソリン残量減の方向へと振れ続けている。
「じゃあ、どうするの……!?」
恐る恐るといった風に和葉が訊くと、ハリーは空いた左手でポンッと和葉の頭に手をやり、安心させるように軽く撫でてやった。
「何とかするさ」
片腕でステアリングを握り締めながらの、そんな彼の言葉は。約束というよりも、何処か己へ言い聞かせているようでもあった。




