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退職届を出したら異世界の村役場に配属されました 〜書類とハンコでヤンデレ村長と勇者を雇用しています〜  作者: 月神世一


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12/14

EP 12

番外編 ポポロ村メロロン心中譚 ~農家の鏡~

 神界。

 ゴッドチューブ、配信スタジオ。

 とは名ばかりの、こたつが置かれた、女神ルチアナの楽屋である。

 その日、ルチアナは、缶ビール片手に、巨大なモニターの前に、座っていた。

「はい、どーも~。女神ルチアナの、ゴッドチューブの、お時間です~」

 やる気のない、間延びした声で、ルチアナが、配信を、始めた。

「今日はね、特別ゲストが、来てます。月の女神、カグヤちゃんでーす」

「カグヤよ。よろしくね♡」

 画面の、隣に、もう一人の、女神が、映った。

 カグヤ。

 月の世界の、女神。

 ハイブランドで、全身を、固めた、優雅な美女。

 ルチアナとは、表向き、円滑な、ライバル関係である。

「で、今日はね。ポポロ村でね、面白いことが、起きてるのよ」

「あら、ポポロ村。最近、PV、伸びてるところね」

「そうそう。例の、書類オタクの、転生者がいる村」

「白石玲、だったかしら。気になる男ね」

「あいつの話は、また今度。今日はね、メロロンよ」

「メロロン?」

「人を、メロメロにする、魔性のメロン」

 ルチアナが、にやり、と、笑った。

「今ね、ポポロ村の、ある夫婦が、見事に、堕ちていってるのよ」

「あらあら」

「これがね、もう、最高のコンテンツでさ」

 ルチアナが、モニターを、操作した。

 画面が、切り替わる。

 ポポロ村の、メロロン畑が、映し出された。

「じゃ、いってみよー。『権田夫妻、メロンに堕ちる』」

 コメント欄が、流れ始めた。

 待ってました

 今日のメロン回か

 この夫婦のやつ、毎回楽しみにしてる

 配信は、回想形式で、始まった。

 数ヶ月前。

 ポポロ村の、権田家。

 権田源蔵ごんだ げんぞう、五十歳。

 代々続く、農家の、当主。

 日に焼けた、ゴツゴツした顔。

 無口だが、働き者。

 権田恵ごんだ めぐみ、四十五歳。

 その妻。

 料理上手で、しっかり者。

 夫婦仲は、悪くなかった。

 画面には、賑やかな、食卓が、映っていた。

 月見大根の、ふろふき。

 トライバードの、丸焼き。

 ハニーかぼちゃの、スープ。

 太陽芋の、煮っころがし。

 そして、サケスキーの、瓶。

 豪華な、夕餉だった。

「いやー、今日も、よく働いたなぁ」

「お疲れさま、あんた。さ、食べましょ」

 源蔵と、恵は、向かい合って、食事を、していた。

 ごく、普通の、幸せな、農家の夫婦。

 そう、この時までは。

 この食卓、めっちゃ豪華www

 幸せそうな夫婦じゃん

 フラグ立ってるなぁ

「ふふ、見て、ルチアナ。この、豪華な食卓」

 カグヤが、画面を、指さした。

「この後、どうなるか、知ってるから、余計に、面白いわね♡」

「でしょ? まあ、見てなって」

 ルチアナが、缶ビールを、ぐびっと、呷った。

 ある日のこと。

 権田家では、新しい作物に、挑戦していた。

 メロロン。

 甘くて、高く売れる、魔性のメロン。

 ただし、栽培には、注意が、必要だった。

「あんた、メロロンの、栽培、本当に、大丈夫なの?」

「ああ、ちゃんと、耳栓と、マスク、して、やるから」

「気をつけてよ。あのメロン、人を、メロメロにするって、言うじゃない」

「分かってる、分かってる」

 源蔵は、軽く、答えた。

 この時、彼は、まだ、知らなかった。

 その「軽さ」が、後に、彼の人生を、クラッシュさせることを。

 最初のうちは、源蔵は、ちゃんと、耳栓と、マスクを、して、作業していた。

 メロロンは、すくすくと、育った。

 やがて、メロンが、小さな、実を、つけ始めた。

 若メロロンの、段階。

「おみず……すき」

 ある日、源蔵が、水を、やっていると。

 メロンから、幼い、声が、聞こえてきた。

「お?」

 源蔵が、耳栓を、外した。

 ほんの、出来心だった。

「今、何か、聞こえたか?」

「また……きた」

「お、おお?」

「ありがとう……パパ」

「ぱ、パパ?」

 源蔵の、顔が、ほころんだ。

「俺、パパか? わはは、可愛いやつだなぁ」

「さみしかった……」

「寂しかったか! よしよし、もう、寂しくないからな!」

 あ~あ、耳栓外しちゃった

 終わったなこのおっさん

 パパwww

 庇護欲くすぐられてるじゃんwww

「はい、出ましたー。耳栓を、外す、典型的な、パターン」

 ルチアナが、解説した。

「最初は、みんな、油断するのよ。『片言で、可愛いな』って」

「父性を、刺激されるのよね♡」

 カグヤが、ふふっ、と、笑った。

「ここから、ズブズブよ」

 数週間後。

 メロロンは、さらに、成長していた。

 完熟メロロンの、段階。

 源蔵は、毎日、メロン畑に、通っていた。

 もう、耳栓も、マスクも、していなかった。

「おはよう、源蔵さん。今日も、良い天気ね」

「お、おう、メロ美。今日も、来たぞ」

 源蔵は、そのメロンを、「メロ美」と、呼んでいた。

「いつも、お水、ありがとうね」

「いいんだ、いいんだ、これくらい」

「でも、無理しちゃ、だめよ?」

「……っ!」

 源蔵の、目が、潤んだ。

「メロ美……お前、優しいなぁ」

「お疲れさま、今日も、頑張ってるわね♡」

「うっ……」

「えらい、えらい♡」

「メ、メロ美……俺、女房に、そんなこと、言われたこと、ねぇんだ……」

 源蔵が、メロンに、すがりついた。

 おっさん泣いてるwww

 いや女房に言ってもらえよwww

 メロ美ってwww名前つけてるのジワるwww

 完全にキャバ嬢じゃん

「はい、ここで、注目です」

 ルチアナが、画面を、指さした。

「『女房に、言われたことない』。これ、重要」

「あらあら、夫婦の、危機ね♡」

「メロロンはね、その人が、一番、言われたい言葉を、言うのよ。だから、現実の、伴侶より、メロンを、選んじゃう」

「怖いわねぇ」

「でしょ?」

 一方、その頃。

 妻の、恵も──。

 別のメロンに、堕ちていた。

 恵は、夫の、源蔵が、毎日、メロン畑に、籠もるので。

 寂しさから、自分も、別の、メロロンの、世話を、始めていた。

 そのメロンは、男性の声で、囁いた。

 恵は、そのメロンを、「メロ彦」と、呼んでいた。

「よう、恵。今日も、来たな」

「ええ、メロ彦……今日も、来たわ」

「お前、最近、疲れてるな。大丈夫か?」

「……っ! あんた、私のこと、心配してくれるの?」

「当たり前だろ。お前のこと、いつも、見てるからな」

「メ、メロ彦……」

「旦那は、お前を、見てないみたいだけどな」

「……っ!」

 恵の、目から、涙が、こぼれた。

「そう、なのよ……うちの人、最近、別のメロンに、夢中で……私のこと、全然、見てくれなくて……」

「俺は、お前を、見てるぜ」

「メロ彦……」

「お前は、いい女だ。もっと、自分を、大事にしろよ」

「メロ彦おお……!」

 おいおい妻もかよwww

 夫婦そろってメロンに浮気www

 メロ彦イケメンボイスで草

 これもう離婚不可避だろ

「来ましたよー、奥さんも」

 ルチアナが、大笑いした。

「夫は、メロ美。妻は、メロ彦。夫婦そろって、別々のメロンに、不倫」

「まあ! 究極の、すれ違いね♡」

 カグヤが、優雅に、笑った。

「お互い、相手が、メロンに、夢中だから、自分も、メロンに、走る。負の、連鎖よ」

「人間って、馬鹿よねぇ」

「ほんとね♡」

 神々が人間を見下してて草

 でもこれは見下されても仕方ない

 メロンに寝取られる夫婦www

 配信は、続いた。

 夫婦の、崩壊が、進んでいく。

 そして、それは、食卓に、現れた。

 最初は、豪華だった、食卓。

 月見大根の、ふろふき。

 トライバードの、丸焼き。

 ハニーかぼちゃの、スープ。

 しかし──。

 メロンに、貢ぐ、お金が、かさむにつれて。

 食卓が、徐々に、しょぼくなっていった。

 ある夜の、食卓。

 月見大根の、漬物。

 太陽芋の、味噌汁。

 ご飯。

 三品だけ。

「……あんた、最近、おかず、少ないわね」

「お前こそ。メロ彦に、いい肥料、買ってやってんだろ」

「あんたこそ、メロ美に、高い水、やってるじゃない」

「……」

「……」

 夫婦の、会話が、減っていった。

 食卓しょぼくなってきたwww

 メロンに金使ってるからなwww

 漬物とご飯だけかよ

 転落の食卓

「ここ、注目ですよ」

 ルチアナが、真剣な、顔で、言った。

「食卓の、品数が、減っていく。これが、依存の、進行を、表してるのよ」

「あらあら、リアルね♡」

「メロンに、貢ぐから、自分たちの、生活が、削られていく」

「人間の、生活って、こうやって、崩れるのねぇ」

「そうそう」

 ルチアナが、缶ビールを、開けた。

「で、この後、もっと、すごいことに、なるのよ」

 数週間後。

 権田家の、食卓。

 生米と、水。

 それだけ、だった。

 二人は、向かい合って、生米を、ぼりぼりと、齧っていた。

「……」

「……」

 会話は、なかった。

 生米www

 もう料理する気もないのか

 完全に崩壊してる

 メロンに全財産つぎ込んでるな

 これは人生クラッシャー

「はい、ここまで、来ました」

 ルチアナが、げらげら、笑った。

「生米と、水。もう、料理する、気力も、ない。全財産、メロンに、つぎ込んでる」

「まあ! 哀れねぇ♡」

「でしょ? で、ついに──」

 ルチアナが、画面を、指さした。

「離婚しちゃうのよ」

 ある日。

 権田夫妻は、村役場で、離婚届を、提出した。

 しかし──。

 二人とも、村を、出なかった。

 メロン畑に、通い続けるためだった。

「あんた、これで、自由よ」

「ああ、お前も、メロ彦と、好きにしろ」

「ええ、あんたも、メロ美と、お幸せに」

「……ああ」

 離婚した、二人は。

 それぞれの、メロンのもとへと、向かった。

 もう、夫婦では、ない。

 でも──。

 お互い、メロンに、夢中で、それすら、気にならなかった。

 離婚してまでメロンwww

 いやもう笑えないだろこれ

 でも笑うわwww

 メロンの魔力やべえ

「離婚、しても、村を、出ない。メロン畑に、通うため」

 ルチアナが、解説した。

「もう、人間の、伴侶より、メロンよ」

「究極の、純愛ねぇ♡」

「純愛、なのか、これ?」

「メロンは、本気で、愛してるもの♡」

 カグヤが、優雅に、笑った。

「相手の、全てを、奪う、本気の、愛。だから、抜け出せないのよ」

 その頃。

 神界の、片隅で。

 見習い女神リリスが、こっそりと、自分のスマホを、見ていた。

 エンジェルすまーとふぉんで、ルチアナの、配信を、見ているのだ。

 手で、画面を、隠しながら。

 ちらちらと、見ている。

「……うわぁ、権田さん、離婚しちゃったぁ」

 リリスは、みたらし団子を、齧りながら、つぶやいた。

「メロンって、怖いですぅ……」

「でも……ちょっと、続き、気になるかも……」

 リリスは、ちらちらと、画面を、見続けた。

 その時──。

「リリス」

「ひゃっ!?」

 背後から、声が、した。

 天使長ヴァルキュリアだった。

「あなた、仕事中に、何を、見ているのですか」

「な、なんでもないですぅ!」

 リリスは、慌てて、スマホを、隠した。

「……ルチアナ様の、配信を、見ていましたね?」

「ち、違いますぅ!」

「画面に、メロンが、映っていましたよ」

「……えへへぇ」

「全く。あなたまで」

 ヴァルキュリアは、ため息を、ついた。

 しかし──。

 その視線が、ちらり、と、リリスの、スマホに、向いた。

「……それで、その後、夫婦は、どうなるのですか」

「あっ、ヴァルキュリアさんも、気になるんですかぁ?」

「い、いえ! 別に!」

「えへへぇ、一緒に、見ましょうよぉ」

「……少しだけ、ですよ」

 ヴァルキュリアも、こっそり、覗き込んだ。

 天使長まで見てるじゃんwww

 神々みんなメロン夫妻に夢中

 仕事しろよ神々www

 配信は、クライマックスへと、向かっていた。

 ある夜。

 メロ美が、ついに、完全に、熟しきった。

 クイーンメロロンを、超えた、最終形態。

 収穫の、時が、来たのだ。

「源蔵さん」

 メロ美が、囁いた。

「私、もう、熟しきったわ」

「メ、メロ美……」

「私を、食べて」

「……っ!」

「身も、心も、全部、あなたに、捧げるわ」

「メロ美……俺……俺……」

「ねぇ、源蔵さん」

 メロ美の、声が、震えた。

「あなたが、私を、食べてくれるのね……」

 そして──。

「ありがとう……源蔵さん……産まれてきて、良かった……」

「メ、メロ美!」

「私を、美味しく、食べてね? 種は、きちんと、保管してね?」

「ああ! 約束する! 約束するから!」

「一年後……また、会えるわ……」

「メロ美! 行くな! メロ美いい!」

「ふふ……ありがとう……源蔵さん……ガクッ!」

 メロ美の、声が、止まった。

 完熟しきった、メロンが、収穫の、時を、迎えたのだ。

「メロ美いいいいい!」

 源蔵が、号泣した。

 うわああああ

 メロ美ええええ

 泣くわこれ

 ギャグなのに泣ける

 産まれてきて良かったが刺さる

「うっ……ううっ……」

 ルチアナが、目を、こすった。

「な、泣いてないわよ。目から、汗が、出てるだけよ」

「ルチアナ……あなた、泣いてるじゃない……」

「カグヤも、泣いてるでしょ」

「な、泣いてないわよ……メイクが、崩れただけよ……」

 二人の、女神が、号泣していた。

 実況の女神まで泣いてるwww

 もらい泣きすんなwww

 でもわかる

 同じ夜。

 恵も──。

 メロ彦との、別れの時を、迎えていた。

 メロ彦も、熟しきっていた。

「恵」

 メロ彦が、囁いた。

「俺も、もう、熟しきった」

「メロ彦……」

「俺を、食べてくれ」

「……っ! 嫌よ! あなたが、いなくなるなんて!」

「恵」

 メロ彦の、声が、優しかった。

「じゃあな、恵。お前との時間、悪く、なかったぜ」

「メロ彦……」

「身体に、気をつけろよ?」

「逝かないで……逝かないでええ!」

「一年後に、また、会おうぜ……ガクッ!」

「メロ彦おおおお!」

 恵が、号泣した。

 メロ彦のラストイケメンすぎるだろ

 身体に気をつけろよ、で死んだわ

 男前なメロンとか初めて見た

 恵さん号泣

「うわああん」

 リリスが、神界で、号泣していた。

「メロ彦さんんん!」

「リリス、泣きすぎです」

「だって、だってぇ! ヴァルキュリアさん!」

「……っ」

「ヴァルキュリアさんも、泣いてるじゃないですかぁ!」

「な、泣いて、いません……これは、その……目の、ゴミです……」

 ヴァルキュリアも、号泣していた。

 そして──。

 離婚した、権田夫妻は。

 それぞれのメロンを、食べた。

 二人並んで。

 メロン畑の、真ん中で。

 号泣しながら。

「メロ美いい……うう……うまい……うまいよ……」

「メロ彦おお……あなた……こんなに、甘いなんて……」

 二人は、泣きながら、メロンを、食べた。

 そして──。

 種を、大事に、保管した。

「来年……また、メロ美に、会える……」

「メロ彦……一年後、また……」

 二人は、それぞれの、種を、ハンカチに、包んで、大切に、しまった。

 種を保管してて草

 マジで一年後また育てる気だ

 この夫婦、離婚したのに、隣同士で種保管してるの地獄すぎるwww

 でもなんか、幸せそう

 こいつら、これでいいのか

「はい、これが、結末でーす」

 ルチアナが、涙を、拭きながら、言った。

「離婚した、夫婦が、それぞれの、メロンを、食べて、種を、保管する。来年、また、育てるために」

「狂気よねぇ……でも、なんだか、美しい……」

 カグヤも、涙を、拭いた。

「人間って、馬鹿で、哀れで……でも、ちょっと、羨ましいわね」

「羨ましい?」

「だって、あんなに、本気で、誰かを……いえ、メロンを、愛せるんだもの」

 カグヤ、いいこと言うじゃん

 でもメロンだぞ

 それでも本気の愛か

 哲学的になってきたな

 その時──。

 画面に、一人の男が、映った。

 白石玲。

 ポポロ村、事務官。

 村役場に、権田夫妻の、件が、報告され、彼が、メロン畑に、到着したのだ。

 玲は、号泣する、権田夫妻を、見た。

 二人が、メロンを、食べ終え、種を、大事に、保管しているのを、見た。

 ルチアナと、カグヤが、固唾を、呑んだ。

「お、出た。書類オタクの、玲」

「彼、どう、反応するのかしら」

「普通に、考えたら、『なんて、悲惨なんだ』とか、言うわよね」

「『不倫は、いけません』とか、説教するかも♡」

 画面の中で。

 玲が、権田夫妻に、近づいた。

 そして──。

 二人が、大事に、保管している、種を、見た。

 玲は、静かに、口を、開いた。

「メロンを、大切に、育てて」

「……」

「美味しく、食べて」

「……」

「種も、きちんと、保管して」

「……」

「一年後も、育てるんですか」

「……あ、ああ」

 源蔵が、涙を、拭きながら、頷いた。

「来年も、メロ美を……」

「私も、メロ彦を……」

 玲は、しばらく、二人を、見つめた。

 そして──。

 深々と、頷いた。

「農家の、鏡ですね」

 その瞬間。

 神界が、凍りついた。

「……え?」

 ルチアナが、ぽかんと、した。

「……今、なんて、言った?」

「……農家の、鏡?」

 カグヤも、ぽかんと、した。

 は?

 農家の鏡?

 そういう話だったか?

 いや不倫だろ

 寝取られだろ

 え、農家の鏡?

「い、いや、玲さん!」

 リリスが、画面に、向かって、叫んだ。

「それ、そういう話じゃ、ないですぅ!」

 しかし、画面の中の、玲は、淡々と、続けた。

「作物に、愛情を、注ぎ、感謝して、いただき、種を、次代に、繋ぐ」

「……」

「循環型農業です」

「……」

「持続可能で、素晴らしい」

「……」

「これこそ、農業の、理想形です」

 権田夫妻は、ぽかんと、玲を、見ていた。

「あ、あんた……」

「俺たちのこと……」

「立派な、農家だと、思います」

 玲は、深々と、頭を、下げた。

 いやそうはならんやろwww

 でもなんか感動してきた

 この男、視点がおかしいwww

 でも誰も二人を馬鹿にしてないの、玲だけだ

 待って、いい話か?これ

 農家の鏡で泣くとは思わなかった

「……ぷっ」

 ルチアナが、吹き出した。

「あはははは! 農家の鏡! あいつ、最高だわ!」

「ふふふ! 面白い男ね♡」

「でも……なんか、いいわね」

 ルチアナが、ふと、つぶやいた。

「みんな、あの夫婦を、笑ってた。『メロンに、寝取られた、哀れな夫婦』って」

「……」

「でも、あいつだけは、笑わなかった」

「……」

「『農家の、鏡』って、言った」

 ルチアナが、缶ビールを、ぐびっと、呷った。

「……変な男だけど、優しいのよね、あいつ」

 ルチアナ、いいこと言うじゃん

 玲だけが二人を肯定した

 笑い話なのに、ちょっといい話になった

 これがポポロ村の事務官か

 農家の鏡、名言入りました

 その後。

 玲は、権田夫妻に、こう、告げた。

「ただし、お二人とも」

「あ、ああ」

「家庭の、崩壊と、生活の、破綻は、看過できません」

「……」

「メロロン栽培区域の、特別労務管理規定を、適用します」

 玲は、書類を、取り出した。

「メロン畑での、作業時間を、制限します。耳栓・マスクの、着用を、義務付けます」

「……」

「そして、お二人の、生活再建を、支援します」

「生活再建?」

「ええ」

 玲は、淡々と、続けた。

「メロロンの、栽培は、続けて、結構です。立派な、農業ですから」

「……」

「ですが、依存ではなく、生業として、健全に、続けてください」

「……」

「そのために、行政が、支援します」

 権田夫妻は、しばらく、無言だった。

 それから──。

 源蔵が、ぽつりと、言った。

「あんた……」

「はい」

「俺たちのこと……馬鹿に、しないんだな」

「ええ」

「みんな、俺たちのこと、笑ってた。『メロンに、狂った、馬鹿夫婦』って」

「……」

「でも、あんただけは……」

「お二人は」

 玲は、静かに、言った。

「作物を、本気で、愛した、農家です」

「……」

「その愛の、形は、人それぞれです」

「……」

「私は、それを、否定しません」

「……」

「ただ、生活が、破綻しないように、支えるのが、私の、仕事です」

 権田夫妻の、目に、涙が、浮かんだ。

 今度は、メロンのためでは、ない、涙だった。

「ありがとう……事務官さん……」

「いえ」

「俺たち……来年も、メロンを、育てるよ」

「ええ」

「でも、今度は……ちゃんと、生活も、しながら」

「それが、いいと、思います」

 玲は、にっこりと、笑った。

 いい話だ……

 農家の鏡から、ちゃんと着地した

 玲、やっぱりいい男だな

 誰も救わなかった夫婦を、玲だけが肯定して、支えた

 これがポポロ村か

 メロン回、神回だったわ

 神界。

 配信を、見終えた、ルチアナと、カグヤ。

 そして、こっそり、覗いていた、リリスと、ヴァルキュリア。

 四人とも、しばらく、無言だった。

「……いい話、だったわね」

 カグヤが、ぽつりと、言った。

「ええ」

 ルチアナが、頷いた。

「あの夫婦、笑い話で、終わると、思ってたのに」

「玲が、変えちゃったわね」

「……変な男よ」

 ルチアナが、ふっ、と、笑った。

「みんなが、笑う相手を、あいつだけは、肯定する」

「……素敵ね」

 カグヤが、優雅に、微笑んだ。

「ねぇ、ルチアナ」

「ん?」

「あの男、わたくしも、ちょっと、気になってきたわ♡」

「……あんた、やめてよ。あいつは、ポポロ村のよ」

「あら、独占?」

「違うわよ。ただ──」

 ルチアナが、缶ビールを、開けた。

「あいつのこと、なんか、放っておけないのよね」

 女神たちが玲に夢中www

 玲、モテすぎだろ

 ポポロ村の事務官、神々まで虜にする

 メロン回、まさかの神回

 農家の鏡、流行語大賞

「はい、というわけで」

 ルチアナが、配信を、締めた。

「今日の、ゴッドチューブは、ここまで。『権田夫妻、メロンに堕ちる』、いかがでしたか?」

「面白かったわ♡」

「次回も、お楽しみに~。じゃ、また、ね~」

 配信が、終わった。

 神界の、コメント欄は、その後も、しばらく、盛り上がり続けた。

 今日のMVPは玲

 農家の鏡、永遠に

 メロ美とメロ彦、安らかに

 来年も二人を見守りたい

 ポポロ村、最高のコンテンツ

 ポポロ村。

 その夜。

 玲が、村役場に、戻ると。

 キャルルが、待っていた。

 頭の上の、うさ耳が、ぴょこんと、立っていた。

「玲さん」

「キャルル村長」

「権田さんご夫妻のこと、聞きました」

「ええ」

「玲さん、お二人を、『農家の鏡』って、言ったそうですね」

「ええ」

 キャルルは、しばらく、玲を、見つめた。

 それから──。

 ふっ、と、微笑んだ。

「やっぱり、玲さんは」

「はい」

「誰も、馬鹿にしない、人なんですね」

「……」

「みんなが、笑う相手を」

「……」

「玲さんだけは、ちゃんと、見て、肯定する」

「……」

「だから──」

 キャルルの、瞳が、優しく、輝いた。

 紅くは、なかった。

 ただ、温かい、想いだけが、そこに、あった。

「だから、わたくし、玲さんのこと──」

 キャルルは、そこで、言葉を、止めた。

 頬を、ほんのり、赤く、染めて。

「……いえ、なんでも、ありません」

「……?」

「ふふ、お休みなさい、玲さん」

 キャルルは、ぺこり、と、頭を下げて、去っていった。

 その後ろ姿を、見送りながら。

 玲は、ぽつりと、つぶやいた。

「……農家の、鏡、ですか」

 窓の外で、月見大根の、畑が、月明かりに、照らされていた。

 ふわり、と、甘い香りが、漂ってきた。

 メロロン畑の、香りだった。

 まるで──。

 メロ美と、メロ彦が。

 「ありがとう」と、囁いているような。

 そんな、夜だった。


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