決意
異世界感を出したい!
絵画の先には、ありえないほど静かで綺麗な夜空が広がっていた。何層にも広がる青色のグラデーションはとてつもなく美しい。木々が立派に生え遠くからは滝の音が聞こえる。自然が豊かすぎる。
「離せ」
気絶していた彼女は目を覚まし俺の肩で暴れていた。
彼はそっと地面に下ろした。
俺が眉間に皺を寄せ涙を流していたことに気づいたのか彼女は唖然としていた。
「あいつ死んだのかよ。」
無責任なことをしれっと言う。だがどこか哀しそうな顔をしていた。
「私を殺せ。あいつが死んだのは私の責任だ。」
意識はあったが自分の意思ではどうにもできなかった。
彼女は覚悟を決めた真剣な眼差しだった。
俺は涙を拭った。
「お前は悪くないだろ。操られていたんだ。」
「それは…」
「何も言わなくてもいい」
「珠羅が生かしてくれた命なんだ。何がなんでも守る。簡単にはお前を死なせない。」
彼の言葉は力強かった。
「お前はこれからどうするつもり?」
俺が持ってきた彼女の剣を腰の鞘にしまいながら問う。
「俺は貧民島の仲間のような苦しい生活をしている人を救うためにこの世界のトップになる」
「はぁ?正気?」
呆れた顔をしていた。
「あぁ、」
「どうすんの」
「とりあえずトップがいる場所までいく。そして殺す」
(こいつ正気?)
しばらく沈黙が続いた。彼は真剣だとまっすぐな目から伝わった。
「どこにいるかわかるの」
「わからねぇ」
彼は至って冷静な言葉で会話を続ける。
「はぁ、」
彼女は後先考えない鷲鬼の発言にため息をつく
「案内する。一応、ここの住人だから」
「頼む」
鷲鬼は即答だった。トップになれるんだったらどんな手でも使ってやろうと言ってきそうなほどに。
「麗条 楓よろしく。一緒に行動するだから名前、名乗っといた方がいいと思って、」
彼女は自己紹介を始めた。
「私は騎士たちに捉えられていたけど、あれは裏切られた。どこにいっても見捨てられた存在だ。私にはあの人しかいない。代々私の家系は人々の呪いを自身に憑依させ人々を救ってきた。なのに。」
何か後ろめたいことがあるのか。その先は語ろうとしなかった。
「じゃあさっきのあの姿は何だ」
疑問を彼女に聞く
「ある人の呪いを憑依させたとき、運が悪かったのか禍鬼という特殊な呪いを受け持ってしまった。解きがわからないんだ」
彼は何も言えなかった。楓は淡々と話を進める。
「ローブ男のパレスは妖を操る魔法使い。私は妖の類の呪いを受けたのか、パレスに洗脳されてしまった。」
楓は悔しく顔を歪めていた。
かつては騎士団の一員として見習いであったが立派に務めていた楓。パレスは妖使いということもあり楓の力を見抜いていた。
楓の力は神器使い、または神器から恩恵を受けていると思ってる人も多い。
「とりあえず鷲鬼は貧民島の住民、服装とか色々変えないと殺される。ひとまず私の師匠のところに行くぞ。」
暗い話続きでまずいと思ったのか話は一瞬にして切り替えた。
「あぁ」
慌てて言葉を付け足す。
「それと私がパレスに捉えられていたことは師匠には内緒にしておいて欲しいんだ。せっかく騎士になれたと思ったら裏切られて命まで落としそうになったなんて、、心配かけたくないんだ。」
「あぁ、わかったよ」
楓は意外といいやつだということがわかった。
○○
滝の流れる音に向かって歩いた。
木々が生えたところに一部道が開けた場所があり、そこには古びた神殿が建っていた。
「ここが師匠の部屋だ。」
(でかいな)
神殿の中に入るといくつもの部屋があり、一部屋だけ光が灯っていた。
「師匠お久しぶりです。戻りました。」
声を上げると端の方から高身長の男が本を持って出てきた。
(こいつ只者ではないな)
雰囲気から力を隠し持っていると感じる。
「こやつは?」
「貧民島の住民です。」
麗条は師匠の前では敬語で礼儀正しくなっていた。
「我の名は恭醜という。」
「よろしくな、えっと、」
「鷲鬼だ」
困ったように会話が止まったので即座に名乗る。
「よろしくな鷲鬼くん」
「あぁ、」
恭醜は和やかに手を差し伸ばし、彼らは手と手を重ね合い、熱い握手を交わした。
「俺はどこの誰だろうと気にしないがこの街で生きていくには苦しいだろう。くれぐれも気をつけろよ。」
地上の人間からしたら貧民島の人間は汚らわしくゲスで生きている価値もない存在だ。バレたら即殺されるだろう。
俺は生まれた時に騎士から背中に貧民島の住民であることを示す焼印が押されている。髑髏マークに鎖が交差し合うマーク。
(呪いだ)
「わかっている」
恭醜が口を開いた。
「それと楓、己のことを鷲鬼くんに話すべきだと我は思うぞ。」
「なぜですか師匠。あって間もないやつですよ。」
恭秀は何も言わずに微笑んだ。
「わかりました。」
不満な顔をした顔でこちらと目線を合わせる。
すると鎧を脱ぎ、突然背を向け服を腰回りまで脱ぎ下げた。晒しを巻いた胴体は美しく、四肢は簡単に折れてしまいそうなほど細かった。
(こいつ何をするつもりだ。)
動揺する鷲鬼に比べ恭醜は腕を組み、動揺することなく見ていた。
「禍化。」
楓は一言唱えると禍化の姿に変化し、背中には太陰太極図、通称陰陽気マークが記されていた。しかし陽の部分が消えかけていた。
「私は見ての通り禍々しい鬼の姿をした人間だ。今までは陰と陽が保たれていたから呪いを引き受けても自身に何か起こることはなかった。だが禍鬼の力が強すぎて陽が失われていった。今は月に一度ほど自我が保てなくなるときがある。陽を取り戻すには禍鬼の力を払わないといけないんだ。浄化の魔法をかけても効果は発揮しなかった。隊長の能力でもダメだったんだ。
どうにもできない状態に少し沈黙が続いたところに恭秀が話を切り出した。
だから鷲鬼くん彼女の呪いを解く方法を見つけてやってくれ。この世界のトップになるのだろう?」
楓は服を着てる最中、師匠がそのことを知っていることに驚き鷲鬼と目を合わせた。
そのときにはすでに禍化は解かれていた。
「なぜそれを!?」
「楓だって騎士から裏切られたんだろ。」
2人は驚きを隠せない。
「まだ言ってなかったな」
恭醜は微笑みながら口を開く。
「我の能力は今手に持っている本から出会った人の少し先の未来が記された文字が見えるんだ」
「ただ、その未来を本人に伝えると体の一部がなくなってしまうんだ。」
恭醜の目線は左腕を見ていた。
(まさかこいつ)
「まさに我の左腕は義腕だ」
「脱線してしまった。我も禍鬼の呪いについての本を漁っているのだが情報はほとんど書かれていないんだ。」
「この世界のトップを目指す男ならこの先知ることになるだろうと思ってな」
(絶対的リーダー感のある男だ。)
「我も協力してあげたいのだが生まれつき体が弱いもので戦闘に参戦なんかしてしまったら足手纏いでしかならない。」
「鷲鬼くんの力でこの世界を変えてみろ」
人任せで人ごとだと思って簡単に言いやがる。
「我は君たちの少し先の未来を知っている。我の助けなんぞいらんよ。」
「今日はゆっくり体を休めるといい。出発は明日だ。」
恭醜の言う通り今日は休ませてもらうことにした。
美味しい肉料理に綺麗な服、ふかふかなベッドまで、貧民島では決してあじわうことがなかった幸せ。
(もしも…)
○○○○
「可哀想な人だ」
目を開けると悲しい顔をした男が顔を覗き込んでいた。スーツを着たなかなかに美形な細身の男。
そっと倒れている彼に手を差し出す。
俺はその手を取り立ち上がる。
(あれ?なぜ俺は生きているんだ。)
周りを見渡しても牛やろうはいなかった。
「僕が片付けておいたよ。」
男は優しく微笑んでいた。
「すまないね。びっくりさせちゃったかな。僕の名はザルクだ。」
「君があんまりにも哀れで助けたくなっちゃってね。」
俺は今までのことを思い出していた。
(運動神経も頭も悪くて俺はただ鷲鬼に縋るだけの無能な人間。自分に価値なんてあるのか)
「悔しくないのですか。何もできない役立たずで」
俺は虫唾が走ってザルクの胸ぐらを掴んだ。
「悔しくないわけないだろ!」
「全てが憎いと」
珠羅は睨んでいたがザルクは微笑みながら冷静に答える。
「なわけ…」
被せるようにザルクが口を開く
「もし力を手に入れられるとしたら…」
「君は欲しいかね?」
直に、俺は地面に叩きつけられた。
(はぁ?)
ザルクの姿は漆黒に包まれた悍ましい姿になっていた。触手が生えそこにはいくつもの目玉が付いていた。彼自身も目の色が赤へと変化していた。
「これを手にすれば力が手に入る。」
そう言って彼は触手から一本の弓を差し出した。
「この弓には神の力が宿っている。さぁ力が欲しいのなら取れ。」
(こんなに弱い自分が嫌いだ。無能にはなりたくない!)
珠羅は弓を手に取った。光が全方向に放たれる。
「我の力を欲するか」
目の前にはザルクの姿はなく、武装をした片目眼帯の髭の生えた彫りの深い男がいた。
別の空間にいるようだった。
珠羅は死んでいない世界の方が面白いと思い、最初書いていたものと違う形になりました。




