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『クラス対抗デスゲームで最弱の歩兵だった俺、実は盤上最強でした』  作者: 水前寺鯉太郎


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第47話 条項の裏側

第47話『条項の裏側』


 投票が始まったのは、EMPによる通信ジャックから三十分後のことだった。

 

【緊急国民投票:プログラム第十一回の継続・中止について】

 

 コメント欄は瞬時に沸騰した。『①中止だろ』『今すぐ止めろ』。木村の告白、ハヤシの決意――盤たちが命を懸けて放った「ノイズ」は、一億二千万人の良心に火をつけた。開始五分で『中止』は68%に達し、その数字は加速し続ける。

 摺鉢山の底、誰もが画面を見つめていた。笑い合う古賀や関口。及川も「止まる」と言い切った。だが、盤の頭脳だけは、警告のような違和感を鳴らし続けていた。

「……金山。憲章第六条、全文を調べろ。端末の権限をハヤシさんたちと共有すれば、非公開領域にアクセスできるはずだ」

 

 投票開始から二十分。中止票は81%を超えた。

 同時刻、東京圏第一区、運営本部。田所たどころは細い目をさらに細め、漆黒のモニターを見つめていた。「中止決議が成立する。……第六条第二項、発動準備」

 非公開条項。中止が決まった瞬間、プログラムの「実態」を知る参加者を全員排除するための、自動防衛システム。

 暗い格納庫で、十体の人型機体が起動する。光学センサーが赤く点灯し、胸の「駒」の紋章が鈍く光る。――自律戦闘型将棋兵装システム『からくり兵』。彼らには、降伏も、対話も、憐憫も存在しない。

 

「……見つけました」

 金山の声から、血の気が引いていた。盤とハヤシが画面を覗き込み、石のように固まる。

『第二項:中止決議成立の場合、全参加者の排除をもってプログラムを終了とする』

「……どちらに転んでも、俺たちは殺されるように設計されていたわけか」

 盤の呟きに、摺鉢山が静まり返った。笑顔が凍りつき、及川は自分の指が「死のボタン」を促してしまった事実に戦慄する。

 

 投票終了。

【①中止する 84%。――中止決議、成立】

 一瞬の歓声。そして、すぐに訪れる、死の地鳴り。

 

「地面が、揺れている……地下から来るぞ!」

 沼田の叫びと同時に、東の廃墟から「それ」が這い出してきた。金属の肢体、赤く光るセンサー。人間を効率よく屠るためだけに設計された、十体の鋼鉄の棋士。

 

 一億二千万人のスマートフォンに、無慈悲な字幕が流れる。

【中止決議成立に伴い、自動防衛システムを起動します】

 コメント欄が、絶望と自責に塗り替えられた。『自動防衛って何?』『俺たちが①を押したから、殺されるのか?』『知らなかった、止めろ! 止めろ! 止めろ!』。

「いいね」のカウンターはもはや動かない。一億の「共犯者」たちの祈りと叫びが、虚しく画面を埋め尽くす。

 

 摺鉢山の上。盤は迫りくる赤い目を見据え、一歩も引かなかった。

「戦う。……他に、選択肢はない」

 ハヤシが、吉本が、木村が、そして三十九名の生存者たちが、盤の背後に並んだ。

「盤。……勝てるの?」澪が聞いた。

 盤は、将棋の盤面を展開した。計算上は、圧倒的な「詰み」。しかし。

「ある。……まだ、最後の手がある。……一億人の意識は変わった。なら、残るはこの物理的な『バグ』を叩き壊すだけだ」

 

 盤の瞳に、計算を超えた「不合理な光」が宿る。

「行くぞ。……日曜日を、本当に俺たちの色で塗り替えてやる」

 

 一億人が見守る中、十体の死神が、摺鉢山の裾野へと静かに、しかし最速で踏み出した

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