第45話 残存
第45話:『残存』
誰も、気づいていなかった。
グリフィンが完全に撤退したと、誰もが信じ込んでいた。しかし、廃ホテルの地下には、通信を断たれ、システムの網から零れ落ちた「残存」がいた。
コルタス、チェン・ウェイ、バレンシア。疲弊しきった彼らを動かしたのは「命令」ではなく、画面越しに見たハヤシ隊長の姿だった。
摺鉢山まで五百メートル。彼らが出会ったのは、七日間、名前を呼ばれることなく一人で生き延びていた岸本直樹だった。
「……案内しようか。一人より、複数の方が安全だ」
七日間、孤独という毒に晒された少年の瞳には、敵味方を超えた「他者」への渇望があった。コルタスは、銃を下ろした。泥を啜って生きてきた者同士の、言葉を超えた了解。
摺鉢山の縁に、四十一名の命が集結した。
岸本が盤の前に立ち、種田がその名を手帳に刻み直す。「生存」という二文字が、涙で滲む。
「……名前を呼ばれた。それだけで、全然違うんだ。……盤、俺はここにいるんだな」
岸本の震える声に、盤は静かに頷いた。
そして、ハヤシが前に出た。
盤が仕掛けた「罠」は、もう完成していた。金山が装置を操作し、フィールド上空の全ドローンを電磁的に捕獲する。運営の「編集」を許さない、一億二千万人の脳内へ直接注ぎ込むための、純粋な生放送が始まった。
「ハヤシ隊長。……世界中の共犯者たちに、あなたの『理由』を聞かせてやってください」
ハヤシは、カメラを真っ直ぐに見据えた。そこには軍人としての威圧はなく、ただ一人の人間としての、静かな、しかし峻烈な覚悟があった。
彼は深く、長く、息を吸い込んだ。
「……私の名は、ジョー・ハヤシ。第422連隊、隊長だ」
その第一声が放たれた瞬間、全世界のパブリックビューイングが、居酒屋のテレビが、若者のスマートフォンが、同一の映像で真っ白に染まった。
七日目。午前〇八時三〇分。
娯楽としてのデスゲームは、今この瞬間、人類史上最大の「公開審判」へと変貌した。




