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『クラス対抗デスゲームで最弱の歩兵だった俺、実は盤上最強でした』  作者: 水前寺鯉太郎


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第43話 過失

第43話『過失』


 それは、あまりに唐突で、無機質な終焉だった。

 摺鉢山の北側。全勢力が中央に集まり、歴史的な「対話」が始まろうとしていたその刹那。ワイルドキャットの末端に配置された三名の陸士――初陣の恐怖に呑まれていた片岡、前田、坂本は、自分たちが「システムの不備」という名の引き金になることを知らなかった。

 

 情報の空白。三名に「会議開始」の報は届いていなかった。彼らの脳内にあったのは、教本通りの制圧手順だけだ。

「いる。……参加者だ。塹壕の中に潜んでいる」

 坂本が火炎放射器を構えた。無骨なノズルが、死の角度で固定される。

「やるか」

「……やれ。命令だ」

 

 塹壕の奥。岡田真由と浅野健は、盤たちの合図を待っていた。慎重すぎるほどに慎重な二人は、指示があるまで動かないことを選んだ。その「誠実さ」が、最悪の罠となった。

「盤たちが呼んだら行こう。……もうすぐ、終わるんだよな」

「うん。……あ、何か音が――」

 

 ――ごう。

 空気を焼き尽くす咆哮。盤は火炎放射器の音を知らなかった。だが、聞いた瞬間に本能が「取り返しのつかない崩壊」を悟った。

「岡田! 浅野!」

 北へ走る盤。しかし、火線は無慈悲に塹壕を飲み込み、黒い煙が鉛のように空へと立ち上った。

「駄目だ、澪。見るな。……入らせるわけにはいかない」

 入口で立ち止まった盤の声は、氷点下まで冷え切り、しかし微かに震えていた。澪は、盤の手に指が食い込むほど強く掴まり、ただ一点を見つめていた。

 

 吉本が現場へ駆けつけた時、そこに残されていたのは、ただの「過失」という名の焼失跡だった。

「……誰が、撃った」

 松田の報告に、吉本の顔から色が消えた。「陸士三名が独断で使用。……情報伝達の、遅延です」

 吉本は泣き崩れる片岡たちの前に立ち、怒鳴ることさえできなかった。これは、末端まで血を通わせられなかった自分の、そして軍という組織の敗北だった。

 

 ハヤシが盤の隣に立った。

「……すまない、天城盤。同じ正規軍として、俺が謝る」

「謝っても、生き返らない。……岡田は、いつも本を読んでいた。浅野は、誰よりも公平にパンを分けていた。……そんな奴らが、なぜ死ななきゃならなかった」

 盤の瞳が、青白い静かな怒りに変質した。

「ハヤシ隊長。……俺が怒っているのは、あの兵士たちにじゃない。この不条理を『79%』で肯定した世界にだ。岡田と浅野が焼かれたのは、あの数字が選んだ結果だ」

 

 種田は震える手で、手帳に二つの名前を書き加えた。岡田真由、浅野健。歪んだ文字が、泥の地面に落ちる涙で滲む。木村は離れた場所で、その光景を網膜に刻んでいた。

「美琴。……最適解が変わった」

「え……?」

「このプログラムを、今この瞬間に終わらせる。……それ以外に、須藤やあの二人への手向けはない」

 

 一億二千万人のスマートフォンに、速報が届いた。

【正規軍の誤射により、参加者2名死亡。岡田真由、浅野健】

 

 コメント欄は、凍りついた。

『誤射……?』『焼き殺したのか?』『俺、①を押した。……俺たちが殺したのか?』

 

 いいねのカウンターが、初めて停止した。

 娯楽が、呪いへと変わった瞬間。

 摺鉢山の底で、天城盤が、金山の抱えるEMP装置へと静かに手を伸ばした。

 

「――チェックメイト。……一億人の共犯者たち、覚悟しろ」

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