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『クラス対抗デスゲームで最弱の歩兵だった俺、実は盤上最強でした』  作者: 水前寺鯉太郎


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第42話 開幕

第42話『開幕』


 〇八〇〇。

 廃棄都市に設置された無数のスピーカーが、無機質な電子音で「戦闘開始」を告げた。七日目。しかし、その音はもはや誰の耳にも「殺し合いの合図」としては届かなかった。

 

 河川敷では、ワイルドキャットの吉本と、第422連隊のハヤシが向き合っていた。

「吉本でいい。……ハヤシ、お前も盤と話したのか」

「ああ。……先を越されたな。吉本、お前も『濁った目』を洗いたいと思っていたのか」

 二人は短く、しかし鉄のような信頼を込めて握手した。

「摺鉢山に、全勢力が合流している。……ハヤシ、俺たちは『清掃』を辞める。……緑の旗を上げろ。話し合いの時間だ」

 

 摺鉢山の縁に、盤と澪が立った。西の斜面を、武器を持たず、一本の「緑の旗」を掲げて登ってくるハヤシの姿を網膜に捉える。

「……招いたわけじゃない。だが、俺たちの『直感』が呼んだ客だ」

 木村太一もまた、影から這い出すように縁に並んだ。ハヤシと木村。二つの最強が視線をぶつける。

「第422連隊、ハヤシだ。……木村太一、須藤隆二は強い仲間だったな。……俺の部下も二人、同じ地獄で散った。もう、ここで死ぬ名前を増やしたくない。……それだけだ」

 木村の瞳が、一瞬だけ止まった銀時計のように揺れた。「……悪くないスローガンだ、Go for Broke。……天城、この客を招き入れるか」

 盤は、背後の種田を見た。最弱の王が、泥に汚れた手帳を強く抱きしめ、小さな、しかし凛とした声で告げた。

「……入ってください。みんな、同じ『人間』として」

 

 摺鉢山の底。

 ワイルドキャット十名、第422連隊十二名、A組十一名、ワイルドセブン六名。

 合計三十九名。

 軍服と泥まみれの制服が混在する、人類史上最も不格好な円陣。盤、木村、吉本、ハヤシ。四人のリーダーが中央に立ち、頭上のドローンを睨みつけた。

 

「今日、俺たちは戦わない」吉本の声が、すり鉢の壁に反響する。「代わりに、このプログラムを……この狂った娯楽を終わらせる方法を、世界に叩きつける」

 

 国民のスマートフォンが、震動と共に狂喜と困惑の速報を告げる。

【摺鉢山、全勢力集結。正規軍・参加者による『合同会議』開始】

 コメント欄は爆発した。『何が起きてる?』『正規軍と学生が話してる!』『天城盤、何をやらかす気だ』。

 一億二千万人の欲望のカウンターが、今や「殺戮」ではなく「未知の結末」への飢餓感で、猛烈な速度で回転し始める。

 

 摺鉢山の上に、眩いばかりの朝の光が差し込んだ。

 七日目の戦場は、一人の歩兵が指した「不合理な一手」によって、国家への反逆という名の巨大な舞台へと変貌していた。

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