第41話 同じ毛布
第41話『同じ毛布』
〇四三〇。
雨はまだ、この街の罪を洗い流すように降り続いていた。摺鉢山の内側、廃材で作った風よけの陰では、十六人の少年少女たちが身を寄せ合っていた。A組とB組――昨日まで境界線の向こう側で殺し合っていた者たちが、今は同じ冷気を分け合っている。
種田の手帳が、及川との間に置かれていた。
「須藤の名前も、あるな。……ありがとう、種田」
「……B組の、みんなの名前も書くよ。須藤さんの分も、俺が覚える」
及川は目を赤くし、雨の空を仰いだ。「……王様じゃなくてもよかったが。お前が俺たちのクラスにいてくれて、よかったよ」
野口と田中は、古賀と関口に食料を分け、沼田と浜田は無言で罠の配置を話し合っていた。橘のリベロとしての反応と、浜田の地形把握。異なる能力が混ざり合い、即席の、しかし強靭な「戦隊」が形成されていく。
風よけの一番奥では、一枚の薄い毛布の下に、木村と美琴がいた。背中から伝わる木村の心音を、美琴は静かに数えていた。
「木村さん。……明日、怖いですか。第422連隊が、来るのが」
「……心臓が、少し速い。お前の言う通り、これが『恐怖』なのだろうな」
「正直ですね」
「……お前に嘘をついても、虚しいだけだからな」
木村は、かつて自分が捨てたはずの「人間らしい揺らぎ」を、毛布の熱の中で受け入れていた。美琴に促され、彼は心の中で止まっていた「時計の針」を動かすように、呟いた。
「……よくやった、光。……俺は、お前を一度も、駒だなんて思っていなかった」
〇五〇〇。
雨が少し、弱くなった。古賀が関口の肩で眠り、野口が壁に背を預けて目を閉じる。盤と澪が林から戻り、その「不合理な平和」の光景を網膜に捉えた。盤は、驚くほど自然に「よかった」と思った。美琴が安らかに眠っていることに。敵の安眠を祈る自分に、苦笑いする余裕さえ生まれていた。
「盤。……座れ。少しは休め。……あんたの肩、まだ私のための場所、空いてるでしょ」
澪の隣に座り、肩が触れ合う。二人はそのまま、世界が静かになる音を聞いていた。
〇六〇〇。
ついに雨が止んだ。摺鉢山の上に、痣のような雲を突き抜けて、薄い、しかし確かな光が差し始めた。
「雨が止んだぞ」
沼田の声で、一人、また一人と目を覚ます。伸びをする者、泥水を啜る者、手帳を抱きしめる者。
「おはよう」
種田が、クラスの、そして「生き残った者たち」の王として、静かに告げた。
「おはよう」
「おはよう」
境界線の消えた十六の声が、順番に重なる。木村も答えはしなかったが、隣で目覚めた美琴の横顔を、眩しそうに見つめていた。
国民のスマートフォンには、死の秒読みが冷酷に届く。
【第422連隊 到着まで1時間50分。生存者19名(内、正規軍2名)】
コメント欄の熱狂の中に、異質な声が混ざり始めていた。『もう、あの子たちを撃たないでくれ』『天城盤、木村。……生きてくれ』
いいねのカウンターが、今度は「生」を願う祈りによって、猛烈な速度で回転し始めた。
〇八〇〇まで、あと二時間。
泥だらけの「歩兵」たちは立ち上がり、自分たちの顔を同じ向きに揃えた。
空を埋め尽くす、輸送機の重低音が、遠くから聞こえ始めていた。




