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『クラス対抗デスゲームで最弱の歩兵だった俺、実は盤上最強でした』  作者: 水前寺鯉太郎


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第38話 六日目の終わり

第38話「六日目の終わり」


 雨は、1200頃から本格的な土砂降りとなった。

 摺鉢山の塹壕には泥水が溜まり、掘り返した土は生臭い汚泥へと変わっていった。それでも、誰も動けなかった。グリフィンがやられ、ワイルドキャットが沈黙し、ワイルドセブンが塹壕へと辿り着いた。全員が、この冷たい水音の中で息を潜めていた。

 

 1400。グリフィンのキャンプから、後送の車両が出た。

 誠一せいいちは傘も差さず、雨の中で立ち尽くしていた。オリベイラとフォンテーヌ。かつて共に笑い、即席の料理を分け合った部下たちの顔が、雨の向こう側に消えていく。

「黒田。本部に報告しろ。……グリフィンの戦力再編が必要だ。それと、正規軍投入の見直しを提言する。……これ以上の『清掃』は、国家の損失だ」

 誠一は、自分がかつて捨てたはずの「兵士としての痛み」が、泥まみれの息子たちの手によって蘇っているのを感じていた。

 

 ワイルドキャットのキャンプ。吉本は、雨に煙る摺鉢山を見据えていた。

「十六名の生徒が、あの丘に籠もっているか。……数だけなら、俺たちの倍だ」

「天城盤との接触はどうしますか」

「……明日だ。雨が止む時、あの少年が指す『一石』が、このプログラムを終わらせるか、地獄を完成させるか。……俺は、それを一番近くで見極めたい」

 吉本は、二十年間抜くことのなかった己の牙を、静かに研ぎ澄ませた。

 

 摺鉢山の底。

 A組とB組の混在。昨日まで殺し合っていた者たちが、肩を寄せ合って体温を分け合う不条理。

 ばん木村きむらは、塹壕の端で、初めて正面から向き合っていた。

「天城盤か。……想像通り、感情を捨てた目をしているな」

「……お前もな、木村太一」

 

 雨が、二人の間に壁を作るように降りしきる。

「……終わらせたい、このプログラムを。これ以上、須藤さんのような駒を失う前に」

「できると思っているのか。不条理を計算で上書きするなど」

「一人ではできない。だから、お前の『詰将棋』を俺に貸せ」

 木村は盤の言葉を咀嚼した。合理性を重んじる自分が、最も軽蔑するはずの「情」に満ちた誘い。だが、ポケットの中の止まった銀時計が、木村の手の中で熱を帯びているように感じられた。

 美琴、及川、そして野口たち。彼らの瞳にも、戦いへの疲弊ではなく、明日への「執着」が宿っている。

「……話にならないが。……乗ってやるよ、その無謀な賭けに」

 

 1800。スピーカーが鳴り、六日目の終わりを告げた。

 死亡者三名。須藤隆二、オリベイラ、フォンテーヌ。

 

 種田たねだは手帳を開き、三人の名前を書き込んだ。敵の軍人の名もうまく書けないアルファベットで、一画ずつ丁寧に。誰かが覚えていなければ、彼らの死はただの「視聴率」として消費されるだけだから。

 

 国民のスマートフォンには、今夜も残酷な更新が届く。

【六日目終了。生存者19名】

『木村と天城が合流? 最高に熱いじゃん』『明日、誰が最初に死ぬか賭けようぜ』

 コメント欄の暴力的な熱狂。それは、雨の中で震える彼らとは無縁の、あまりに遠い、しかし決定的な「敵」の声だった。

 

 0800まで、あと十四時間。

 雨がすべてを洗い流していく中で、摺鉢山の底では、人類史上最も不格好な「反逆」の種が、静かに芽吹こうとしていた。

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