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『クラス対抗デスゲームで最弱の歩兵だった俺、実は盤上最強でした』  作者: 水前寺鯉太郎


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第37話 震動

第37話『震動』


 〇八一二。

 国民のスマートフォンが、一斉に、そして不吉な震動を伴って鳴った。

 

【速報:グリフィン隊員 死亡2名、重傷2名。原因は参加者の自爆攻撃。正規軍、作戦を一時停滞】

 

 首都圏の茶の間。画面を覗き込んだ子供が「学生が軍人さんに勝ったの?」と無邪気に問い、母親は返答に窮した。パブリックビューイングの広場では、どよめきの後、誰からともなく「拍手」が沸き起こった。安全な場所でコーヒーを啜る彼らにとって、それは史上最高のジャイアント・キリング――。須藤隆二の命は、瞬時に「エモい」コンテンツとして消費され、いいねのカウンターは狂ったように回り続けた。

 

 ワイルドキャット・キャンプ。吉本は端末を一瞥し、静かに伏せた。

「……誠一」

 独り言のように漏れた声には、かつての戦友を案じる「人間」の色が混じっていた。

「作戦を変更する。摺鉢山への強襲は中止だ。……グリフィンがやられた今、無理に動けば同じ毒針を喰らう。……松田、天城盤に接触しろ。あいつと、対局ではない『話し合い』の機会を作れ。……制圧の形を変えるぞ」

 

 摺鉢山。

「グリフィンが……やられた。死亡、二名」

 種田が震える声で告げると、塹壕の中は墓所のような静寂に包まれた。須藤隆二。昨日まで自分たちを狙っていた死神。しかし、自分たちと同じ制服を着て、戦場を駆けた一人の少年。

「軍人さんでも……死ぬんだね」古賀の言葉に、誰も答えなかった。

 

 宮本が盤の隣に寄った。「盤。……吉本ワイルドキャットは様子見に入る。チャンスか?」

「チャンスでもあり、最悪のトリガーでもある。本部は焦るだろう。焦れば、さらに無理な『掃除』を命じる。……だから、その前に、フィールドのルールそのものを壊す必要がある」

「終わらせる、ってことか。このプログラムを」

「ああ」

「……お前、変わったな。最初は計算だけで動いていたのに」

「……言い切らないと、動けないからな。……計算外の熱を、今は信じている」

 

 南の斜面から、美琴が塹壕の縁に手をかけた。その後ろには、須藤を失い、復讐心ではなく「覚悟」を宿した木村たちが続く。

 北の斜面の向こうでは、ワイルドキャットが様子を窺っている。

 全員が、この小さな丘に集まろうとしていた。

 

「全員、聞け」

 盤は、金山の抱えるEMP装置――クラス全員の命が宿る金属の塊を見つめ、言った。

「戦い続けるか。……それとも、今日でこの絶望を投了おわりにするか。……俺たちは今、初めて『選択権』を手に入れたんだ」

 

 風が吹き抜けた。雨の匂いが、死の香りを洗い流すように強くなる。

 摺鉢山の草が一斉に揺れたその瞬間、ポツリ、とコンクリートを叩く音がした。

 

 雨が、降り始めた。

 一億二千万人の視線の先で、天城盤が、金山の装置に静かに指をかけた。

 

「――チェックメイト。……世界を、暗闇に沈めてやる」

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