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『クラス対抗デスゲームで最弱の歩兵だった俺、実は盤上最強でした』  作者: 水前寺鯉太郎


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第35話 三つの軍議

第35話『三つの軍議』


 月曜日の朝が来た。〇六〇〇。

 フィールドの空は、今日も古い痣のような色をしていた。昨日よりも雲は厚く、低く、湿った潮風が雨の到来を告げていた。

 三つの場所で、同時に「終局」への軍議が始まった。

 

 【ワイルドキャット・キャンプ】

 吉本は地図を砂利の上に広げた。十名の山猫たちが車座になり、負傷した橘と木下も、包帯を血に滲ませながら参加していた。

「昨日の総括から始める。……摺鉢山の相手は、想定より頭が動く。あの盤という少年、俺たちの動きを『読んで』待っている」

「隠し球がありますね」松田が言った。

「ある。何かはわからん。だが、必ず俺たちの喉元を狙っている。……だから、今日は『縁』を登らない」

 全員が吉本を見た。山猫の目が、獲物を追い詰める冷徹な細さに変わる。

「摺鉢山は巨大なスピーカーだ。四方向から同時に閃光弾を投げ込む。爆音と光の奔流で、中の連中の聴覚と視覚を一時的に焼き切る。……機械システムに頼らず、五感の混乱を突いて、一気に飛び込む」

「了解です。……しかし隊長、もし隠し球を弾かれたら?」

「即座に撤退しろ。わからない手には、無理に当たらない。それが山猫の誇りだ。……それと、天城盤。あの少年と対話する可能性を頭に入れておけ。制圧の形は、力だけではない」

 

 【グリフィン・キャンプ】

 誠一は壁に背を預け、黒田に地図を支えさせていた。

「ミニミを早く出しすぎたのが昨日の敗因だ。木村太一は銃声の方向から、俺たちの重心を逆算してくる。……今日は小銃で圧力をかけ、奴の逃げ道を『廃工場』という密室へ限定してから、ミニミで蓋をする」

「陳、お前は後方支援だ。右腕を狙われたのは、お前の癖を見抜かれたからだぞ」

 誠一の言葉に、陳が悔しげに黙る。誠一は全員を見渡した。

「木村太一を殺すな。……囲んで、動けなくしろ。奴から『盤面を操る自由』を奪え。……0745、吉本三佐と連携する。奴を摺鉢山へ追い込み、山猫と挟撃する」

「隊長。……カップヌードル、塩辛すぎませんか」

 部下の言葉に、誠一は冷めきったスープを見つめた。「……明日もこの味だ。死にたくなければ、胃に流し込め」

 

 【ワイルドセブン・廃ビル】

 木村は床の地図に、赤インクで大きな円を描いた。

「摺鉢山を使う。グリフィンが来れば、俺たちは北へ――種田チームの塹壕へ後退する。……グリフィンと種田を鉢合わせさせる」

「種田たちを盾にする気か?」及川が詰め寄る。「木村さん、それは……」

「関係ない。……戦争に綺麗な棋譜はないと言ったはずだ」

「いいえ、木村さん。別の方法があります」

 美琴が、静かに、しかし断固として割って入った。木村の瞳を正面から射抜く。

「種田チームに事前に知らせる。……盤に接触し、グリフィンを挟撃する協定を結ぶ。天城盤なら、この『毒を食らわば皿まで』の提案に乗るはずです」

 須藤が笑った。「木村、美琴の言う通りにしろよ。俺は及川の甘っちょろい正義も嫌いじゃないぜ」

 木村はポケットの中の、止まった銀時計に触れた。昨夜の美琴の言葉が、耳の奥で鳴っている。

「……わかった。美琴、天城盤に接触しろ。0800時、開戦と同時に『交渉』を開始しろ。……変な奴同士、せいぜい不気味な握手でもしてくるんだな」

 

 〇七〇〇。

 一億二千万人のスマートフォンに、運命の通知が届いた。

【生存者:20名。本日、正規軍作戦継続】

 

 摺鉢山では、盤と澪が、霧の向こうを見据えていた。

「盤。……今日も、生きろよ。約束だからな」

「……ああ。この盤面、俺たちの手で投了おわりにしてやる」

 

 0800まで、あと六十分。

 雨の匂いが、死の香りを連れて、街を白く塗り潰し始めていた。

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