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『クラス対抗デスゲームで最弱の歩兵だった俺、実は盤上最強でした』  作者: 水前寺鯉太郎


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第32話 装備

第32話「装備」


 〇九三〇。膠着する摺鉢山すりばちやまの淵。

 天城盤あまぎ・ばんは、泥にまみれた塹壕の縁から、三〇メートル先に伏せる「死」の輪郭を、瞬きを忘れて観察していた。

 視界の先、冬枯れの草むらに融ける迷彩服。彼らが握る金属の塊――「二〇式」最新型小銃。その銃身に取り付けられた不気味な黒い箱「SMASH」――スマートスコープの存在を、盤の網膜は逃さなかった。

 

みお。……あの黒い箱が付いた銃から目を離すな。あれは『機械が必中を決める』システムだ。お前の反射神経も、俺の演算も関係ない。照準が重なった瞬間にだけ、弾丸が放たれる。……逃げる隙すら与えない、確率の死神だ」

 澪の顔から、急速に血の気が引いていく。「……そんな、魔法みたいなものがあるの?」

「魔法じゃない。ただの冷酷な、確率の管理だ。……あいつらは、引き金を引くことすら機械に任せている」

 

 同時刻、南区画。

 空気を物理的に叩き潰すような「ミニミ」軽機関銃の連射が、廃ホテルの外壁をつぶてに変えていた。コンクリートが粉砕されるたびに、耳を劈くような金属音が街に響き渡る。

 美琴みことは、三階の窓際で破片を浴びながら、階下の凄惨な光景を睨んでいた。グリフィン。その装備は、世界中の戦場を渡り歩いた「私物」の不揃いな機能美に満ちている。

(FAMASに、M16。……最短で喉元を食い破るための、猟犬の牙か)

 

「美琴! 撤退だ! こいつら、俺たちの『死角』を組織で埋めてきやがる! ……本物の軍隊だ!」

 及川の悲鳴が混じる無線。木村太一きむら・たいちは、裏路地の暗がりに背を預け、愛銃・ドラグノフの銃身を強く握りしめた。

(フィールドが狭すぎる。……この迷宮(市街地)では、狙撃の射程が『壁』に食われるか)

 木村は、初めて自分の「詰み」の可能性を計算に含め、薄く、狂ったように笑った。

「及川、美琴。……浜田の罠まで引き込むぞ。あいつらの『組織』という名の壁を、この廃墟の構造でバラバラに解体してやる」

 

 摺鉢山。

 盤は金山かなやまの隣に滑り込み、彼が抱える不格好な心臓――EMP装置を見つめた。

「金山。……あいつらのスマートスコープ、これで焼き切れるか」

「……はい。光学系と電子的追尾は、このパルスで『盲目』にできます。……でも、盤さん。あいつらは、視力を失っても、音だけで俺たちの眉間を撃ち抜けるプロです」

「それでいい。……機械の神様がいなくなれば、あとはただの『剥き出しの人間同士』の対局だ。……その方が、勝率が高い」

 

 盤は、塹壕の縁から、微動だにしない吉本三佐の影を見つめた。

「盤、次の一手はどうするの?」

 澪の問いに、盤はかつてないほど「不明瞭」な笑みを浮かべた。

「……計算じゃない。……あの隊長の『目』が、俺たちをただの駒として見ていない気がするんだ。……殺意の中に、別の何かが混じっている」

「直感? ……らしくないね」

「ああ。だが、今はその『バグ』を信じてみたい。……行くぞ、澪」

 

 一億二千万人の視線が注がれる、日曜日の残酷な陽光。

 機械の意志(SMASH)と、人間の直感。どちらの「精度」が、この地獄を生き残るのか。

 盤の指先が、EMPのスイッチを、静かに、しかし決然と押し込んだ。

 

「――神殺しの、時間だ」


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