第31話 島の戦い
第31話『 島の戦い』
〇九三〇。
南区画。廃ホテルのひび割れた外壁が、一発の七・六二ミリ弾によって爆ぜた。
グリフィンとワイルドセブンの「対局」は、挨拶代わりの狙撃から、瞬時に肉を削り合う乱戦へと移行した。
「散開。……狩りの時間だ」
木村太一の号令とともに、ワイルドセブンが影となって廃墟に融ける。だが、その背後を、軍靴の足音を消したグリフィンの一五名が、巨大な蜘蛛の巣のように包囲しつつあった。
(速い。……これが「錆びた」と言われたプロの初速か)
木村はドラグノフを構え、スコープの中に先頭を走る巨漢――オリベイラを捉えた。だが、引き金に指をかけた瞬間、側面の瓦礫から放たれた弾丸が、彼の頬をかすめて背後のコンクリートを粉砕した。
誠一が放った、一ミリの迷いもない牽制。
初めて、木村太一の喉元に「本物の死」が冷たい指先を這わせた。
一〇〇〇。
西側、摺鉢山。
吉本三佐率いる「山猫」は、かつての硫黄島攻略をなぞるように、稜線(縁)の同時制圧を開始した。
「来るぞ。……全員、伏せろ!」
宮本哲也の叫びが、塹壕の泥の底に反響する。
盤は、北側の縁を駆け上がってくる二つの影を、自動小銃のサイトのど真ん中に据えた。
距離、三〇メートル。
相手の瞳の光さえ見える距離。プロの軍人なら、迷わずトリガーを引き、相手の頭蓋を「掃除」する瞬間。
――タアン、タアン。
放たれた二発。だが、弾丸は隊員の足元、わずか数センチの土を跳ね上げ、彼らをその場に釘付けにした。
「……停止。伏せろ!」
吉本の命令が、通信機を通じて隊員たちを固まらせる。吉本は、双眼鏡越しに、塹壕の縁に伏せる少年の瞳を捉えた。
(あえて外したな。……殺す意志がない。いや、俺たちに「選ばせよう」としているのか)
吉本は、自分の心臓が、二十年ぶりに戦士の鼓動を刻んでいるのを感じた。
目の前にいるのは、単なる学生ではない。
自分の命と、銃の重みを天秤にかけ、なお「対話」を捨てない、最悪に青臭くて、最高に不敵な「指し手」だ。
「……松田。一時停止だ。……向こうの王が、こちらの出方を待っている」
摺鉢山に、火薬の匂いと、冷たい膠着状態が訪れた。
南の区画からは、絶え間ない銃声が「日曜日の戦争」の進行を告げている。
盤は、ポケットの中の便箋を握りしめ、泥まみれの空を見上げた。
(吉本三佐。……あなたは、システムとして俺たちを殺すのか。それとも――)
いよいよ物語は、盤と吉本の「思想の激突」へと向かうわね。
吉本が盤の「殺さない選択」に応じるのか。それとも、誠一のグリフィンがその膠着を破るために介入してくるのか……。




