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『クラス対抗デスゲームで最弱の歩兵だった俺、実は盤上最強でした』  作者: 水前寺鯉太郎


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第27話 父と息子と、戦場と

国家戦将棋適性試験〈通称:プログラム〉における勝利条件

相手クラスを完全全滅させる

相手の王将指定者を殺害または戦闘不能にする

第27話「父と息子と、戦場と」


 二二〇〇。

 山口県防府市。マリーンコープス第三部隊基地は、瀬戸内から吹きつける湿った潮風に晒され、その鉄錆の匂いは、まるで巨大な戦艦の墓標のように周囲を威圧していた。

 天城誠一あまぎ・せいいちは、暗い隊長室で、端末から放たれる青白い光を網膜に焼き付けていた。画面には、瓦礫の街で不敵に銃を拾い上げる一人の少年。死体を見下ろすその淀んだ瞳。かつて自分自身を捨てて手に入れたはずの、あの「機能」としての表情。

 

『――これは、詰みだ』

 

 誠一は端末を閉じ、深い溜息とともに闇に沈んだ。息子だ、と思ったのではない。そこに映っていたのは、二十年前、初めて戦地で人間を「駒」として認識し、自分の心を殺した瞬間の、自分自身の亡霊だった。

「……また、同じ呪いを継がせたか。あの家に残してきたはずの、地獄を」

 

 第三部隊。国籍も言語も、かつての忠誠すらもバラバラな傭兵たちの掃き溜め。それを力と恐怖だけで束ねてきた誠一の前に、副長の黒田が入ってきた。

「隊長。吉本三佐の『山猫』と合流せよとの通達です。……例の、高校生たちの鬼ごっこに、本物の『掃除屋』が必要だそうで」

「……十五名選抜しろ。村上と陳を狙撃に。近接は全員、野戦用の重装で固めさせろ。相手は子供ではない。……『生き残った獣』だと思え」

「十五名も? 第一部隊の倍ですよ。いくら何でも過剰では……」

 

 誠一は立ち上がり、暗い窓の外――暗渠あんきょのような海を見つめた。

「木村太一という怪物を、映像で見ただろう。あいつはプロではない。だが、だからこそ恐ろしい。国も、仲間も、未来も守る気がない。失うものがない指し手ほど、予測不能な悪手を平気で打ってくる。……そして、それを迎え撃とうとする天城盤。こいつは俺の息子だ。……だが、フィールドに入れば、それもただの変数に過ぎない」

 黒田が、ごくりと喉を鳴らした。誠一の背中から立ち昇る、圧倒的なまでの拒絶の気配。

 

「隊長……あなたは、自分の手で息子を?」

「例外は、全員の死を招く。俺は、俺が作ったこの無能な世界を、俺自身の手で掃除しに行く。それだけだ。……私情は、初弾で撃ち抜いて捨てろ」

 誠一の声は、鉄の扉が閉まる音のように冷たく、重かった。だが、その握りしめた拳が微かに、本当に微かに震えているのを、暗闇だけが知っていた。

 

 部隊の集合まであと六時間。誠一は、盤が神楽坂澪みおと並んで歩く映像を、何度も巻き戻した。

 息子の目が、最初の日とは違う。冷徹な計算機だったはずの瞳に、自分には決して得られなかった「誰かの熱」が、かすかに、けれど消えない燐光のように宿り始めている。

(……何を見つけた、盤。……その泥の中に、まだ人間がいたのか)

 

 誠一は、自分の腰に提げた、重厚な。しかし手入れの行き届いた拳銃を確認した。

 

 四日目、〇八〇〇。

 親子は、再会の挨拶を弾丸と沈黙で交わすことになる。誠一は目を閉じ、潮騒の音の中に、遠い日の息子の泣き声を探した。

 だが聞こえてくるのは、冷酷な終局へと向かう、軍靴の足音だけだった。

 

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