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『クラス対抗デスゲームで最弱の歩兵だった俺、実は盤上最強でした』  作者: 水前寺鯉太郎


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第15話 三つの旗

からくりデス・ゲーム憲章

第14条(例外規定)

完全勝利者とは、

すべてのゲームにおいて敗北条件を一度も満たさず、

かつ“他者の意思決定を支配した状態で勝利した者”を指す。

この条件を満たした者に限り、本憲章の改変権を有する。

 第15話「3つの旗」


 正午の太陽は、廃墟の街を無慈悲な白光で焼き尽くしていた。

 影は足元に鋭く凝縮され、逃げ場を失った生存者たちの孤独を抉り出す。

 

『現時点の生存者数をお知らせします。A組、一四名。B組、九名。……合計、二三名。……繰り返します。……』

 

 無機質な定期放送が、熱せられたアスファルトに溶けて消える。午前中、銃声は一度も響かなかった。だがそれは平和を意味しない。互いの喉元に刃を突き立てるための、最も濃密な「殺意の充填チャージ」の時間だった。

 

 北の果て、摺鉢山すりばちやま

 えぐれた大地の底で、宮本哲也は腫れ上がった足首を、泥に汚れた包帯で強く縛り上げた。激痛が脳を焼く。だが、その痛みが彼に「まだ人間であること」を思い出させていた。

 

「同盟を、組まないか」

 その言葉は、熱風に巻かれて橋本浩の耳に届いた。B組の巨漢、橋本は、鉄パイプを杖のように突き、地面を睨んでいた。

「……反吐が出るな。俺たちは、お前らを殺せば『卒業(勝ち組)』への最短距離に戻れるんだぞ」

「戻れないさ。……あんたも、あの女(関口)も分かってるはずだ。木村太一は、一度切り捨てた駒を二度と拾わない。あんたたちがここに戻れば、あいつは自らの『計算違い』を消去するために、躊躇なくあんたたちの眉間を撃ち抜く」

 

 橋本の拳が、みしりと音を立てて固まる。その隣で、関口奈々が乾いた唇を開いた。

「……宮本くんの言う通りよ。私たちは木村くんにとって、存在しない方が数式が整う『余剰変数』でしかない。……なら、自分たちで新しいルールを書き換えるしかないわ」

 

 沈黙。摺鉢山の底に溜まった熱気が、六人の肌をじりじりと焼く。

「……条件は二つだ」

 橋本が地を這うような声で言った。

「一つ、俺たちを駒として扱うな。対等な『協力者』だ。……二つ、もし裏切ったら、その瞬間に俺がお前の首をへし折る。いいな」

「……ああ。契約成立だ。緊急時の指揮だけは俺に預けてくれ。……足が動かない分、脳味噌ここだけはフル回転させる」

 

 握手はない。ただ、六人の腕には、自分たちの制服を引き裂いて作った「灰色の布」が、共通の識別票フラッグとして巻き付けられた。システムに拒絶された六人の、音のない反逆の産声だった。

 

 同時刻、廃工場の奥深く。

 はんだごての焦げた匂いと、過覚醒した人間の体臭が充満する暗がりで、金山浩二がゆっくりと立ち上がった。その手には、不格好に配線が剥き出しになった、歪な金属の塊が握られていた。

「……完成、しました」

 金山の声は、数日ぶりに光を見た者のように震えていた。

 

 ばんはその装置を手に取る。それは内側から焼き付くような熱を放っており、不気味な脈動さえ感じさせた。

「これが、『神殺し』の雷か」

「はい。起動すれば、半径五〇メートルの電磁場を三十秒間だけ焼き切ります。戦術端末、電子スコープ、……そして首輪の通信信号。すべてが、真空の暗闇に沈む。……一回きりです。僕たちの、命の代わりに」

 

 盤は装置を懐に収めた。焼けるような熱が、彼の心臓を急かすように打つ。

「……十分だ。これ以上の武器は、将棋盤の上にも存在しない」

 

 南区画、高級ホテルの地下。

 木村太一は、地図に赤インクで「×」印を書き込んでいた。それは葬り去った級友たちの「終局地点」の記録だった。

「木村さん。……摺鉢山の連中、A組の残党と合流したようです。……『灰色の布』を巻いて」

「……不純物と不純物を足しても、価値はゼロだ。放っておけ。……それよりも、廃工場の鼠(盤)だ。奴は何を待っている?」

「不気味なほど、沈黙を守っています」

「それでいい。……一歩も動かない指し手ほど、恐ろしいものはいないからな」

 木村はペンを置いた。その眼光は、既に数手先の「大量虐殺」の景色を捉えていた。

 

 午後五時。

 廃工場の屋上で、盤と澪は、茜色に染まり始めた廃墟を見下ろしていた。

「……三つに分かれたね。私たちの旗と、木村の旗。……そして、摺鉢山のあの小さな旗」

 澪が呟く。

三巴みつどもえか。将棋には無い、不条理な局面だな」

「あの摺鉢山の子たち。……もしチャンスがあったら、助ける?」

 

 盤は、ポケットの中にある心中した二人の便箋に触れた。

「……俺は合理的な指し手だ。勝利に不要な駒は、切り捨てるのが定石だ」

「……そう。でも、あなたは今、その答えを言うまでに三秒迷ったわ」

 

 盤は答えなかった。遠く、摺鉢山のシルエットが夕焼けの中に溶け込んでいく。そこにあるのは、木村のような強者の暴力でも、盤のような知略でもない。ただ、「生きたい」という、最も原始的で、最も不条理な執念だった。

 

『本日の戦闘時間終了まで、六〇分。……繰り返します。……』

 

 放送が、終局の始まりを告げる。

 明日、この三つの旗のどれかが、血に染まって地に落ちる。

 盤の瞳は、夕闇の向こう側にある「詰み」の景色を、静かに見据えていた。

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