「魔王様、出発するってよ」
我は魔王である。
……隠居する、と告げた。
「それでは、我は行くとしようか」
軽く告げ、席を立つ。
「ちょっと待ってください」
水将の声が即座に飛ぶ。
「補佐役を付けます。それまで待機を」
地将も続ける。
「無許可単独行動は認められません」
「だったらわたしが行くー♪」
風将が軽く手を挙げるが、
二人の視線がそれを刺す。
「……あ、はい」
即座に引くあたり、空気は読めるらしい。
炎将は肩をすくめる。
「まあ、当然だな」
魔王である我が動く以上、単独は許されないという判断か。
合理ではある。
「補佐は誰になる?」
「調整中です」
地将が短く答える。
水将はすでに指示を飛ばしている様子だ。
四将が揃っている以上、判断は早い。
――この世界の統治は、我一人ではない。
それを改めて実感する。
「ならば、準備が整い次第出発とする」
異論はない。
むしろそれが当然の流れとして処理されていく。
魔界とはそういう場所だ。
力ではなく、構造で回る。
そして――
「では、改めて問おう」
地将が視線を上げる。
「目的地は未開地の開拓、でよろしいですね?」
「そうだ」
「魔王としてではなく?」
「魔王として、だ」
短い沈黙。
水将が息を吐く。
「……本当に面倒なことを言い出しますね」
それでも否定はない。
受理されている。
………
魔王城の外縁。
高台より見下ろす世界は、広い。
魔界は広大でありながら、静かだ。
人の数は少なく、だが均衡は崩れていない。
それは秩序というより、力による均衡だ。
魔王が見下ろす先には、未開の地が広がっている。
そのさらに先。
人界へと続く境界が、薄く揺らいでいた。
魔気が満ちる領域と、そうでない領域。
その境界は明確でありながら、どこか曖昧でもある。
「……広いな」
呟く。
だが、制御できぬ広さではない。
「我が手が届かぬということはない」
それだけのことだ。
魔界は実力主義。
それは単純な暴力ではない。
役割と能力によって配置される構造だ。
単体での強さで言えば、四将の方が上だろう。
だが、全体を束ねるという意味では、我が上に立つ。
それが、この世界の形だ。
背後では、既に準備が進んでいる気配がある。
誰が来るかは、まだ定まっていない。
だが、それも時間の問題だろう。
魔王城は、変わらない。
変わるのは、外側だ。
我が出ることで、世界がどう動くか。
それを見届けるだけで良い。
「さて」
一歩、踏み出す。
未開の地へ。
人も魔族も、真に等しく暮らせる世界のために。
水将さん、地将さん、つかれっす。




