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第9話 シチュー・ルー

Side:タイセイ


 子供達の遊びに付き合っていたら、夕飯の準備をする時間になってしまった。

 子供達は手伝いをするそうで各家に帰って行く。


 俺もクロエちゃんと家路に着いた。


「ただいまー」

「お邪魔します」



「おかえりなさい。今日の夕ご飯は何にしましょうか」


 今ちょっと思いついた。

 こんなのはどうだろう。


「シチューのルーがあるけど使ってみないか」

「それって美味しいの?」


 クロエちゃんは食べた事のない料理に興味がある様子。


「それなりにはな」

「悪いわ」

「安いから。大銅貨1枚ぐらいの値段かな」


 100円ちょっとだからな。

 惜しくはない。

 たぶんスマイル100で元は取れる。

 味には自信がある。


「お母さん、ルーってのを食べてみたい」

「じゃ料理しますか」

「ほんとごめんなさいね」

「いいんだよ。みんなの喜ぶ顔が見たいだけさ」


 まずは芋を剥く。

 ピーラーがあるのでクロエちゃんが率先して剥いてくれた。

 玉ねぎに似た野菜をジェシーさんが切る。


 俺は人参に似た野菜の皮を剥き、細かく切った。


「ホワイトシチューだから牛乳が欲しいな。肉はオーガウルフで良いだろう」

「牛乳はないけど、ヤギの乳ならあるわ」

「まあいいか」


 油を鍋に引いて野菜を炒める。

 そして水とヤギの乳を入れて煮込む。

 火が通ったら、肉とルーを投入。

 美味しそうな匂いが立ち込めた。


 クロエちゃんは味見したくてうずうずしているようだ。


「小皿に取ってあげるわ」


 ジェシーさんがお玉ですくって小皿によそった。

 クロエちゃんは小皿からシチューを飲んだ。


「あつっ、でも美味しい。こんなに美味しいのは初めて」


 スマイル100円頂きました。


「私も食べてみようかしら」


 ジェシーさんも味見した。


「あらほんと美味しいわ。香辛料が効いているわね。これで大銅貨1枚は嘘でしょ」


 でもジェシーさんの表情が硬い。


「嫌いな味だった?」

「いいえ、思ったんだけど。あなた使徒よね」


 分からない言葉が出て来た。


「使徒って何?」

「勇者! タイセイは勇者!」


 クロエちゃんが興奮している。

 勇者だとばれた。

 でも敵国で召喚されたことはばれてない。

 辛うじてセーフかな。


「神様に呼ばれた人をそういうのよ」

「呼ばれた記憶は無いんだが」

「飛ばされて来た時に声を聞かなかった?」


 ああ、あれか。

 スマイル100円下さいと言ったら、よかろうと返事があったあれか。

 気のせいだと思ったけど、あれが神様の声か。


「よかろうとだけ言われた」

「おかしいわね。先代の使徒は神様に会って好きなスキルを選べと言われたそうよ」

「ちくしょう。神様の奴、差別だ。俺にも選ばせてくれよ。ちなみに先代は何のスキルを貰ったんだ」


「クロエ、知ってるよ。聖剣のスキルと全魔法を貰った」

「聖剣と全魔法は強そうだな」

「聖剣はどんなモンスターも真っ二つなんだって。でも正義の心がないと使えないんだって」


「聖剣のエネルギーは正義の心か。難しそうだな」

「そうね。盗賊退治の時に、一緒に行った兵の一人が疑問を覚えて、聖剣が力を失ったのは有名な話よ」


「ちなみに何でジェシーさんは俺が使徒だと思った?」

「飛ばされたと言ったわよね。それと常識を知らない所ね。勇者様はカレーのルーが欲しいが口癖だったらしいわよ。これもルーよね」

「そうだな」


 そりゃ、日本人なら、カレーは食いたいよな。


「それに首に着けた紐よ。ネクタイというらしいけど勇者様が現れた時に身に着けていた物よ。同じ物は勇者様の不敬に当たるので、誰も真似しないわ。最初は勇者教の狂信者かと思ったけど、勇者教は剣を手放さないから」


 あの男が俺からネクタイを奪ったのは、それが理由なのか。


「ネクタイもか。俺が使徒だってのは秘密にしておいてくれるか」

「良いわよ」

「クロエも黙っている」


 どうやら俺は崇められる立場らしい。

 だがそんなのは嫌だ。

 それに権力者に良いように利用されて、モンスター退治なんて真っ平御免こうむる。


Side:ジェシー


 やっぱりタイセイはおかしい。

 まず気づいたのはネクタイ。

 これは勇者様が降臨した時に身に着けていた物で、不敬に当たるので誰も真似しない。

 勇者教の狂信者かとも思ったけど、勇者教は剣を手放さないわ。

 剣が恋人って言うくらいだから。


 確定したのはシチューのルーって言葉。

 ルーなんて物はない。

 あるとすれば勇者様の口癖のカレーのルーだけだわ。

 勇者様はそれが手に入るなら金貨を払っても惜しくないと言ったそうだから。


「タイセイさん、ルーはまだ手に入りますか? あら、ルーだなんて言っちゃいけないわね。シチューの素は手に入りますか?」

「いくらでも手に入るよ」


 シチューの素を出してもらって、近所におすそ分けする事にした。

 配って歩いて帰って30分後。


「うおっ、4千円ぐらい手に入った」


 勇者様は正義の心が力の源だったけど、タイセイは笑顔が力の源なのね。

 どちらかと言うと私はタイセイのスキルの方が好きだわ。


「夫の古着で悪いんだけど、一組用意したわ」

「おー、ありがと。これで俺も現地人だな」

「この村では良いけれど、スキルをあんまり見せびらかしたりしない事ね」

「気をつけるよ」

「さあ、夕ご飯にしましょう」


「創造神よ、日々の糧を感謝します」


 夫が食事の御祈りをする。


「「「感謝します」」」


 シチューは美味しく、笑顔溢れる食卓になった。


「あっ、全能力値+1だって」

「ええ、私もね」

「俺もだ」


 さすが勇者のスキルね。

 1食を食べるだけでこれだけ上がるのなら、毎食これで1年も経てばSランクよね。

 でも、勇者が現れたってことは、世界的な危機なのかしら。

 不安だわ。


 前の勇者の時は邪神復活だったわよね。

 今のところ、教会からそんな話は出てない。

 神託が下れば、こんな田舎の村へでもすぐに伝わる。

 良くないことが起こらないと良いのだけれど。

 でも、タイセイがいれば平気。

 そんな気がするわ。


「ばんばん、お金が入って来る。怖いぐらいだ」

「この美味しいシチューを食べたら、みんな笑顔になるのよ。おすそ分けして良かったわ」

「クロエも笑顔」

「がはははっ、みんな笑顔だ」


「まいどあり」


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