第32話 高給ポールペン・チート
Side:タイセイ
元同僚の木村と喫茶店。
「木村、部屋の荷物ありがとな。ばたばたしてて、連絡が取れなかったんだよ」
「神になるための修行中だってな。出世したもんだ」
神になるためは自称だけどな。
だが、推測としてそんなに間違ってないはずだ。
「ははは」
「すまんな。忙しいんで、あまり時間が取れない」
「お礼に良い物を持って来た。免罪符と金貨だ。あんな糞な会社はやめちまえ」
「免罪符?」
「知らないのか。中世末期のヨーロッパで流行ったんだぞ。使うと罪が赦される。俺のは本物だ。使うのは注意しろよ。俺は神の修行中だから、本物の神の天罰は防げない」
「今のいや、元の会社の糞上司を殴りたい」
「盛大にやってやれ。神もお許しになられるはず」
「この袋の大きさだと金貨の枚数はかなりあるな。仲の良い奴も誘うか」
「免罪符は50枚あるから、思いっ切りやっちまえ」
「ああ。契約違反も心配要らないな」
「もちろん」
なぜか、日本で免罪符を売っている。
50組で1320円。
しかも一枚に9つの罪が書ける。
罪銘と数量と対象と備考を書く欄があって、2枚1組。
複写になってて、複写は控え。
誰宛てか書いて、自分の署名と印鑑。
こんな感じだ。
ジョークグッズだと思うが、検索に引っ掛かった時は、考えてるなと思った。
次に警察に目を付けられたら、免罪符を俺も考えてから使おう。
人助けの為なら、神様も怒らないと思いたい。
「よし、辞めてやる!」
「再就職先だが、会社を興さないか。俺の不思議商品を売る会社だ」
「おう、儲かる未来しかないな」
木村のスマホが鳴る。
木村は番号を見てから着信拒否した。
たぶん会社からだな。
「決めなきゃいけないのは、何の商品で行くかだな。大量に数は作れないぞ。俺の不思議な力は無尽蔵じゃない」
「高額商品だな。車、家電、化粧品、嗜好品、酒」
「制約として、込めた不思議パワーがどんな効果になるかは分からない。それと、日本で売ってる他社の商品にしか不思議パワーを込められない」
「効果を使って確かめるとして。魔改造して転売しても良い商品か。難しいな」
「機械関係は性能が良過ぎて、たぶん駄目だ。モデルガンが、とんでもない物になったからな」
「車はスピードが出過ぎると問題だな。家電も安全性が問われる。火事なんかになったら、訴えられてもおかしくない」
「だよな。口に入れないってことで、消去法で化粧品かな」
「化粧品と薬の詰め替えは、薬事法違反なんだよな。いまスマホで調べた」
「詰め替えは無理か。こんなことに免罪符は使えない」
「となると、そのメーカーに許可を貰うしかないな。提携みたいな形にするべきだろう。でも化粧品の効果が上がったら、医薬品になるよな。不思議パワーは解明できないから、成分を書けない。困ったな」
「化粧品は無理か。となると、野菜かな。野菜なら商標とかそういうのは関係ない。品種登録関係の法律には引っ掛からないと思いたい」
「キャッチコピーを奇跡の野菜にするのは良いが、売るのは難しい。口コミで売れるかも知れないが、いまいちだな」
こんなに苦労するとは思わなかった。
ああ、ペン関係はインク無限だったな。
長持ちボールペンとか長持ちマーカーとかはありだな。
これなら、メーカーに許可を取れば問題ない。
「【スマイル100円】、ボールペン」
「何もない所から、いきなり出たな! 本当に神様修行中なんだな!」
「疑ってたのか?」
「いいや、でも聞くと見るでは違う」
「日本メーカーだと思う5社のボールペンを1本ずつ出した。たぶんどこかは興味を示すだろう」
「営業を掛けてみるよ」
インクが尽きないボールペンは値段が1万円ぐらいだとすると、儲けは少ないな。
スマイル200円で俺の利益は2000円も貰えれば良しか。
うーん、上手くないな。
「【スマイル100円】、高級ボールペン」
高級と言っても千円から2千円だけど。
「これは?」
「ええと、高い品物の方が込められた不思議パワーが高い」
「ふーん、これも調べてみるよ」
「頼むぞ」
木村なら上手くやる。
信じてるからな。
Side:木村
小金井から、起業の提案を受けた。
ブラックな会社を辞めたいと常々思ってた俺は飛びついたさ。
「今日で辞める!」
上司に辞表を叩きつけた。
「辞めても、この業界には就職できないぞ。分かってるのか」
「そういうのがムカつくんだよ」
俺は上司を殴った。
「暴行罪で訴えてやる」
俺は免罪符に記入。
判子を押して、控えは俺が貰い、叩きつけた。
「じゃな」
「あれっ、何を訴えるんだったっけ……」
免罪符は実に良い。
スカッとした。
悪用はしないけど。
ボールペンメーカーにサンプルとして、小金井の出したボールペンと一緒に作ったばかりの俺の名刺を配る。
すでに3日。
待てども待てども、連絡はない。
アポを取るのは基本だけど、簡単に会っては貰えない。
画期的な発明って言ったから、誰か試すぐらいはしたと思うんだけどな。
営業なんてこんなものなのは知ってる。
金貨を換金して金はあるから、1ヶ月は粘れるけど。
早まったかな。
他の奴は軌道に乗ったらと思って呼ばなくて正解だった。
スマホが鳴る。
出ると、興奮した声。
「あのボールペンはどうなってる! どんな仕組みだ! ありっあれはうちの工場で作られた物だ! 製造所固有記号も調べた! おい!」
「ええと、信じられないと思いますが、あれは神様修行中の奴が力を込めました」
「ほう、納得だ。だよな、人間技じゃない。インクが減らないし。高い奴は、どんな環境でもインク詰まりも、ボールのすり減りもないんだからな」
「でしょうね」
「他のメーカーにも声を掛けたのか?」
「ええ。ですが、無視されました」
「だろうな。うちに持って来たサンプルは事務員が使っていて、書き易くて何か違うって言い出さなきゃ気づかなかった」
「商談といきませんか?」
「他所のメーカーに話を持って行かれたら、悔しくて眠れなくなる」
やったぜ。
釣り針に魚が掛かった。




