悪役令嬢はエリック?
「似合っていますよ、エリノア嬢」
私の推しであるカルヴィンはそう言うと、碧い瞳を細め、クスクス笑っている。
「え、本当に、大丈夫ですかね?」
「ええ。そういう線の細い騎士見習いは、モテますから。先輩騎士から」
「えええええ!?」
そ、それって禁断の騎士様の世界の話では!?
「実話なんですか!?」と尋ねると、カルヴィンは「さあ、どうでしょう。せっかくですから、試してみては?」なんて際どい答えを返すから、もうドキドキしてしまう。
今の私は、王立ブルー騎士団の、見習い騎士が着用する隊服を着せてもらっていた。ブルーグレーの隊服は、シルバーの飾りボタン、ポケットや袖のシルバーのステッチが、なかなかにお洒落。
髪はシニヨンして、ダークブラウンのかつらを被っている。鼻の下に付け髭もつけ、さらにつけ眉毛もつけていた。どう見てもあのエリノアには、見えないはずだ。
しかも普段は寄せてあげるのに必死な胸は、布をぐるぐる巻いて、つぶせるだけつぶしている。
こうしてエリノア改め、騎士見習いエリックの完成だ。
なぜこんな変装をしているのかというと。
今日、これから、王妃とカーミランのお茶会が行われる。
そのお茶会の場に、護衛の騎士のフリをして、同席しては?――そう、王妃から提案されたのだ!
王妃は本当に、やんちゃ!
大喜びで兄に相談すると「それならばカルヴィンに、見習い騎士の隊服を手配してもらおう」と言ってくれた。こうしてサイズを伝えると……。カルヴィンは私に合うサイズの隊服を、わざわざ屋敷まで持ってきてくれたのだ。それだけではない。団長と王妃に許可をもらい、私と共にお茶会に同行することになったのだ!
このカルヴィンの行動力とフットワークの良さは、本当に感動もの。さすが私の推しだわ!
推しと言えば……。
実は私、推しグッズを作ってもらったのだ!
女性用乗馬服の打ち合わせで知り合ったデザイナーの知り合いに、彫刻家がいた。その彫刻家は銅レリーフを得意としており、カルヴィンをモチーフにした作品を作ってくれたのだ! F0サイズのその銅レリーフのカルヴィンは、横顔なのだけど、とっても素敵! まさに推しグッズゼロ号として、大切にベッドのマットレスに隠している。
同時に。
その彫刻家は、銅レリーフで私の作品も作ってくれていた。前世で言うところの絵葉書サイズのそれは、ドレッサーに立てかけておいたのだけど……。
「エリノア嬢」
見習い騎士の隊服に着替えた私を見るため、カルヴィンは私の部屋にきていた。そこで私の銅レリーフを見つけ、手に取っていたのだ。
「これはあの有名な彫刻家フェルッティの作品では? この特徴的な構図、それにこのいぶしの入れ方も、彼らしい作風だ」
「カルヴィン様の好きな彫刻家なのですか?」
「ええ。でも彼はとても人気の彫刻家で、新規の受注は今、受け付けていないと聞いている。……でもこの作品、モデルはエリノア嬢。しかも今の姿に近い。まさか最近、作られたものでは!?」
こんなに興奮気味のカルヴィンは珍しい。
しかも彼が気に入っている彫刻家だと言うのならば……。
「カルヴィン様、この銅レリーフ、お持ちになりますか?」
「え!」
「モデルが私であるところが申し訳ないのですが……。あの厩舎での一件で、公爵家として御礼はさせていただきました。でも個人的な御礼はまだでしたから。こちらの銅レリーフでよければ、受け取ってください」
するとカルヴィンは絶句し、驚愕の表情で私を見た。
「エリノア嬢。フェルッティの市場取引価格を、ご存知なのか?」
「実は知り合いを通じて制作いただいて、価値を……まともに分かっていないのです。こんな価値をよく分かっていない私が所有するより、真価を理解するカルヴィン様にお持ちいただく方が、有意義だと思います」
本当はフェルッティがどんな彫刻家であるかは、リサーチ済みだった。でもこんな言い方でもしないと、カルヴィンは受け取らないだろうと思ったのだ。
「宝石と同じぐらいの価値があるのですよ、このサイズの銅レリーフであっても」
「まあ、そうなのですね! では……預かってください。カルヴィン様に、肌身離さずお持ちいただければ、本望ですわ」
カルヴィンは「参った」という感じで自身の髪をかきあげた。
ブロンドのサラサラの髪が指からこぼれる様は、神々しく感じる。
このショットでポスター欲しい……!
「……では預からせていただく。いつでも返すから、その時は言って欲しい」
「ええ、そうしますわ」
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続きは本日、22時までに『悪役令嬢は意味深な視線に戸惑う』を公開します。
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【御礼】第二回ドリコムメディア大賞、最終選考に残りました!
昨晩、活動報告にも投稿した通り、『完結●断罪終了後に悪役令嬢・ヒロインだったと気づきました!詰んだ後から始まる逆転劇』という作品で奇跡が起きました。読者様の応援に心から感謝です。
未読の読者様、ページ下部にイラストリンクバナーございますので、よろしければご覧くださいませ~