3045/05/01 交渉途中、決裂手前
ハクロは何か決めたような表情でこちらをまっすぐに見つめる。
「タダカズトさん、先にマナの半分、45万をお支払いします。子供たちをこちらに返してください。残りは、全員が解放されたあとでお支払いいたします」
そして、その様な提案を大きな声で言い切った。それに対して、私が何か答えるより先に反応を示したのは彼の後ろに控える人の輪であった。
「ハクロ様!」 「ハクロさん、待った。待ってくれ、それはあんた一人が決められることではないだろ!」 「確かに」 「その通りだ!」 「お前、なんてこと!」 「待て、町長たちが戻ってきていないのに勝手に決めてしまうのはおかしいぞ!」 「お前には人の心がないのか!」 「落ち着け! もっと冷静に」 「理屈に合わないと言ってるんだ!」
互いに思ったことを口にするそれは口論では済まなくなり、すぐに激しい口喧嘩となり、罵り合いなっていった。間に立って制止するように努める人もいたが、あちらこちらでそのぶつかり合いは拡大していった。
交渉を急ごうとする者、おそらくは子供たちの親、親族らしき人たちはハクロを支持している。よくよく考えてみれば、ハクロ自身もセンのおじである以上は心情は彼らと近く、それゆえにたどり着いた結論だったのかもしれない。
逆に、それ以外の人たち、その半分は彼らの主張を必死になって抑え込み、止めようとしていた。たぶん、論理的に考えればハクロを止めようとするこの人々が言うことがもっともであった。町の代表たる町長がいない中で、勝手に交渉を進めてしまうのはあまりよろしくない。しかし、その論理めいた結論は、感情の方に振り切った人には届かないモノであった。
その他、最も目立たない役割を演ずることになった残り人たちは感情的にも論理的にもどちらともなれず、両者に挟まれた位置に立つしかない人たちであった。しかし、彼らが間でにいたことで決定的な破局は先送りされた。
「落ち着け! 45万は私が全て出す。私のマナからそれを出す。町の共同の部分からは一切出さない。だから、頼む!」
ハクロはその混乱に治まりつかない状況で更に大声を上げた。おそらく、彼が先ほど一人考えていったのはその部分だったのだろう。自分が賄える部分を冷静に計算し、導き出した半金の45万という数字。それは大きなものであったが、この状況でその声が聞こえたものはおそらく少なかった。
人の輪の騒動は収まるどころかますます大きくなっていく。
「タ、タダサン? どうしよう?」
「あ、あの、何とかできませんか?」
「なんで、こんなことに、」
その様子を見てセン達三人はこちらを向いてそう言ってきた。その後ろに控える子供たちもこちらを見ている。大人たちの本気の衝突に彼らは完全に怯えていた。
(どうしようって、どうしようか? これ)
その言葉にこちらとしても何とか答えたいところであったが、ただ残念なことに、子供たちを安心させられるようないい案は思いつかない。目の間の状況は刻一刻と悪い方に転がっていく。
こちらの声を聞く人がいない。混乱の状況を打破する方法はないか、考えはまとめられず、天を仰ぐようにして、アガートラムの方に自然と助けを求めた。
―どうかされましたか?




