3045/05/01 90万と5万
ハクロはその表情のまま、今までの会話の中で一番大きな声を上げてこちらに話しかけてきた。
「そ、それは、本当に一人5万でよろしいのですか!」
「え、ええっと、はい。あ、あのでも、一人ですよ? 全員で5万ではなくて、」
「そんな、横暴な事言いませんよ! 本当に、5万で、」
「あ、はい。そうです。すみません」
ハクロの様子は明らかにこれまでモノとは違ていた。その言葉の端々に、何か憑りつかれたかのような熱と迫力があり、それに抗しきれず私は追認をした。その後、ついつい口にしてしまった謝罪の言葉はハクロの耳に届かず、急にこちらから目を反らし、何か考え込むように黙り込んだ。
変化はそれだけではなかった。
90万ではなく5万だと私が口にした瞬間、ハクロの後ろに控える人の輪が一瞬だけ、その喧騒を止め、互いにそれを確認するかのよう押し黙った。そして、ハクロがそれは本当かと私に問い詰め、私が本当だと答えた瞬間、一気にそのざわめきが大きくなった。
しかし、そのざわめきは先ほどまでの悲観的なモノではなくなり、明らかに違う色合いのものとなっていた。
「一人5万でいいのか!」 「嘘だろ!!」 「良かった。5万なら、」 「待て、落ち着け、嘘かもしれないぞ」 「いやいや、嘘つくならなんで低くするんだよ?」 「……90万が嘘で、5万が吹っ掛けた数字なら?」 「馬鹿か? 森からここまであの大きな船で空を飛んできたんだぞ? 90万でも安いくらいだろ?」 「でも、それなら、あれはなんで?」 「ハクロさん、すぐに決めてしまおう!」 「そうだよ! 気が変わらなうちに!」
人の輪の中で爆発したそれは私に向けられるのではなく、仲間内であらしを巻き起こすような騒ぎとなっていく。安堵、疑念、提起、反論、四方八方に向かうそれらの一方の出口になったハクロはそれを完全に無視して、押し黙り、一人別の世界で考え込み続ける。
(どういうことでしょうか?)
その様子を、私は一人蚊帳の外に置かれた気分で眺めた。
(とりあえず、バスの料金5万は高くないという事でしょうか? まぁ、90万だと思って5万ですとなったら安いと感じるかなぁ? でも、それ、詐欺じゃね?)
何か一人、罪悪感を感じる。本当に意図していない偽証行為を働いた気分でその騒ぎの外に位置する。
「タダサン? その、5万って高いのか?」
私と同じく、騒ぎの外に位置する子供たち、その中でセンがこちらにそう聞いてきた。
「う、うーんとねぇ、まあ、高いかなぁ、」
私は何と答えればいいのか迷いながらも、私の感覚としてそう答えた。セン達はその答えに少しざわつき始めた。
その様子にも罪悪感を覚える。そちらに目を向けるわけにいかず、いまだに空中に表示された明細を眺める。
(大人500、シード5万、シードってなんだっけ? 種? なんでそんな言い方するのか? 小人ではないのだろうか? )
明細を眺めながら、その書かれた不思議を考える。その思考を深くしようとした時だった。
「タダカズトさん!」
「は、ハイ!」
いきなり、ハクロからフルネームで名前が呼ばれ、私は大きく返事を返した。




