3045/05/01 バスから降りて
「90万? おい! ちょっと、ちょっと待って、間違ってねーか? 計算? おい!」
―多田様。大変危険ですので、移動中に体を動かすのはおやめください。公共の交通機関を利用する際、乗り降りに関しては安全に速やかに行いませんと、他のお客様のご迷惑になります。
もう自然に口から言葉が出た。下手したら、今日一番の大きな声を出していたかもしれない。頭上からアガートラムの以前も聞いたような注意を受けたが、それでも私の中でぐるぐると渦巻くものはそれで納まるはずがない。
しかし、抗議空しく、私を乗せた車いすはノンストップで出口に向かい、セン達が待つ外に出された。外に出ると同時にプシュッっと音を立ててバスのドアが閉められ、バスは再び浮上の準備を始める。私を乗せた車いすはその邪魔にならないように少し離れた場所まで進み、そこで停まった。
「おい! 待て、待てよ! 話は全く終わってないぞ! おい!」
―多田様、落ち着いてください。バスが出発しますので、危険ですから近づかないでください。
無事、外に出られたが、私はそれを喜ぶ事が全くできなかった。もう一度、バスに戻って、請求された数字について聞かなくてはならないというそれに心が完全に囚われていた。頭上から聞こえる注意も頭に入らず、バスの方に体を向けていた。
乗る前に訊いた金額はどこまで乗っても500で、18人の子供と私を合わせて19人になら合計は9500である。一万は越えないはずであるが、実際の請求はそれの90倍以上の金額である。明らかに騙されている以上、どんな人がいい人間だってこんなことされれば騒ぐはずである。
だから、外に出てからも、ふつふつと湧いた感情のまま、バスに向かって言葉をぶつけた。言葉を口にすればするほど、それが何か心の中に沸いた感情と結びついて激しく燃え盛った。それが一切の制御できない形で、更に言葉を激しいものとする。
そんな状態の私を完全に無視するようにバスはさっさと再び空に浮かび上がり始め、私の感情は極大に振り切って、人ではないまま、更に大きな声で盛大に吠えていた。
「待て、おい! せめて、明細を、レシート見せろ! どういう計算で90万なんてなるんだ? なんだこれ! おい!」
―多田様、明細についてはこちらに頂いております。
「じゃあ、それを見せろ。どう計算してそんな金額になるのか、」
そこで、ようやくバスに向けていた体をアガートラムの方に向ける。バスにばかり向けていた意識を初めてそこから外し、自分を見る多くの目の存在に気付いた。
「タ、タダサン? どうした?」
「あ、あの、何かあったの?」
「金額って足りなかったんですか?」
「……いや、そうではないんだけど、」
セン達の明らかに心配そうな声に、そこで私はようやく自分を思い出した。




