3045/05/01 バスなのに
私の言葉、感情がきちんと理解できているのか、天井からあのアナウンスの声がすぐに響いた。
―お客様が全員分をまとめて支払うという事でよろしいですか?
「ああ、ここにいる全員分、俺が払う」
―了解しました。
僅かな確認を済ませると、セン達の行く手を塞いでいたバーが上がり、もとの位置に戻る。しかし、三人はすぐには外に向かわずに、こちらを向いてほとんど同時に声を出した。
「もう、通っていいのか?」 「えっと、もう何もないのよね?」 「あの、本当にいいんですか?」
その言葉はそれぞれ微妙に違う意味合いニュアンスが含まれた確認であった。本来ならば、それぞれの質問に答える形で言葉を返すべきだが、私は一言だけ答えを返した。
「大丈夫」
「わかった」 「本当に?」 「ありがとうございます」
三人は私の言葉を聞いてそれぞれ言葉を返した。そして、やはりセンが先頭になって一番先にバスを出た。
その瞬間、バスを取り囲んでいた人々のざわめきが大きくなった。続いて、ロックが降り、最後にアールが続いた。その度ごとにざわめきは大きくなり、最大に近づいたと思われた時、センが口を開いた。
「今から、他のみんな降りてくるから、少しだけ待っててほしい!」
「こちらに近寄らないで、全員が降りすまでそのままあとちょっとだけ待って!」
「みんな無事ですから、安心して、ほんの少しだけ待ってください!」
三人の声は、ざわめきの中、確かに投げ入れられた。
それは本当に奇跡的なタイミングであったのだろうか、その場にいた人々は三人の言葉を聞けるだけの理性が残っていた。ざわめきの声は未だにあちらこちらから響くが、誰かが衝動的にこちらに向かうということはない。
「タダサン! 大丈夫みたいだ!」
「……良かった」
「ほら、みんなも急いで、」
その様子に一番ホッとしたのは勇気を振り絞ったセン達三人であろう。センはこちらに顔を向けて笑いながらそう報告し、アールは安心したように言葉を漏らす。ロックはまだ残る他の子供たちに声をかけた。
「よし。ほら、みんなも外に出て、あ、でも、慌てないでいいから、出口に近い方から順番に並んで」
バスの車内に残った子供たちは続々と立ち上がて、バスの外に向かっていった。
子供たちが外に出るたびに、外では声が上がったがそれも大分落ち着いていた。最初はもっと大きかった記憶があるが、先ほどの子が外に出たあたりでは大分飽きたような感じになっていた。私が見える範囲、他に子供はいなく、おそらく最後となる子に声を掛けた。
「君で最後かな?」
「は、はい」
「分かった。じゃあ、気を付けて」
「ありがとうございます」
子供たちがいなくなった後、一応もう一度だけ後ろを振り返り、声を掛ける。
「おーい、誰かいない? いるなら返事して?」
もちろん無人の車内から返事は返されない。それを確認して私もバスを降りることを決めた。車いすを固定していたロックを外し、出口に向かう。天井から久しぶりのアナウンスが響いた。
―乗車人数、シード18、大人1名、計九十万五百マ―ナとなります。
「え?」
―ご利用ありがとうございました。
「え? ちょっと?」
聞き逃せない金額を請求され、払わされた。




