3045/05/01 降車前、心の準備
広場にバスが近づくにあたって、人の囲いはどんどんと厚くなっていった。その数は、ざっと数えても百や二百ではない。千、下手したら万単位の人がいるように見えた。おそらくは町の中にいる全ての人がここに集まってきているのだと思えた。
集まった人々はこちらを指さしたり、肩を寄せ合ったりとバラバラの反応を見せているが、明らかにこちらに対して警戒している様子であった。しかし、先ほどの馬に乗った人たちと違い、警戒しているから何かするという動きは見せなかった。
ある意味、逆にその人数が幸いしていたのだと思える。何かしようにも、人が集まりすぎて何もできなくなっていた。しかし、それはぎりぎりの状態である。きっとほんのわずかの事で全てがこぼれ出してしまう本当に極限、境界線上であった。
「ここって、どこ?」
外の様子を警戒しつつ、私はバスの中の子供たちに訊ねた。大勢の人がこちらを見上げていると意識したせいなのか、それとも、ただの生理的な欲求なのか、のどが渇いて仕方なかったが、何とか言葉を出せた。
アガートラムやバスにそれを尋ねれば、その答えは“警察署”だと帰ってくるだろうが、それは私が今、欲しい答えではない。
先ほどの事から外を恐れる子供たちに私はその質問をした。
「……町、私たちの」
ポツリとアールは言葉を返してくれた。他の子供たちもそれを肯定しているのか首を縦に振ってくれた。
「そうか、そうだよね……」
―警察署前、警察署前、お降りお客様は手荷物忘れずに、お降りください。
タイミングがいいのか、どうなのかバスは地上にゆっくりと着地した。
ほとんど着地の際の揺れというものは感じなかった。プシュッとガスが抜ける音が聞こえ、乗り降りした時とは別の私のすぐ近くの扉が開いた。外から、おお! とどよめくような声が聞こえる。それがこの後どちらに転がるのかわからないが、今は、誰も動こうとはしない。
それは、バスの中にいる子供たちも同じであった。全員が外に出たいという気持ちがあるのか、そわそわと身動きを見せていたが、外の様子と車内を見渡して次に動き出せないでいた。
「……よし、みんな先に降りなさい」
「えっ?」 「いや……、」 「でも、」
私は少し考えてからそう子供たちに伝え、バスの中にいる子供達からは困惑の声が上がった。




