3045/05/01 警察署前
「なんで、なんでなの?」
「い、いや、まあ、ほら、あのね、」
ポツリと吐き出した一言が何とも重い。
どう言葉を掛ければいいのか、深く沈み込む彼女の姿に困り果てて、何も意味のない言葉をつなげてしまう。その言葉を彼女はおそらく聞いてはいない。繰り返し、同じ言葉を彼女は自身に問いかける。
その様子に痛ましさを覚え、私はアールを見ていることが出来なくなる。バスにいる他の子供たちもアールほどでの深刻さではないにしても、皆同様に身内、顔見知りから拒絶されたという事実がかなりのショックで、バスの中は今日一番の静かさにあった。
「どうしよう、これ……」
―次は、警察署前、警察署前に停車します。お降りの際、忘れ物がないようにお気を付けください。
タイミングがいいのかどうなのか、バスのアナウンスが停まる場所を伝え、同時に壁にモニター部分に見慣れた漢字が流れていく。警察という文字、言葉を見た瞬間、私はほとんど無意識に反応し、反射的に赤く光った柱のボタンを押した。
ピンポン! 軽い音が鳴り、続いてバスが停まるというアナウンスがされる。それを聞いて、あっ! となってしまった。
警察はこの世界にいない……、かもしれないということを思い出す。病院の中でアガートラムが通報したのに警察は現れなかった事、セン達三人も警察という職業に心当たりがないと話したことを唐突に思い出した。
(あれ、でも、警察がいないのに警察署前にバスが停まる? 警察がいない警察署とはいったい? )
―警察署前、警察署前、バスが完全に止まってから、お降りください。
まるで禅問答か、言葉遊びのような事が頭をめぐる。分からないことを考えていると、アナウンスが鳴り響き、バスは再びゆっくりと下降を始めていた。
急いで窓の外を見る。幸いにもこちらを追いかける灯は見えない。しかし、問題があった。
(警察署ってここ?)
明らかに町の中、それも記憶にある日本的な統一感のない住宅街の街並みではない。
なんと例えればいいのか、海外のような、それこそ中世的な街並み、映画のセットのような石と煉瓦で作られた家々が立ち並ぶその街角の一角、人が大勢いる広場に向かってバスは降りようとしていた。




