3045/05/01 空を飛ぶ
アールが大人しく自分の席に戻る、すると腰に巻きついたベルトは自然とはずれ彼女は自由になった。ずいぶんと嬉しそうな顔をこちらに向け、その後、私の説明の通り、ベルトの先を反対側の受け口にはめる為にゴソゴソと体を動かし始めた。
「こうか?」 「入んない? こっち?」 「入った!」 「これでいいの?」
アール以外の子供たちも、皆同様に初めてのシートベルトに悪戦苦闘しながら、しばらく格闘していると何かのはずみでうまく締められたものが出た。そうすると、出来た者は周りの者にコツを教える始め、カチャ、カチャとバスのいたるところでリズミカルにシートベルトを締める音がした。
その間、バスは時折、風か何かで揺れることはあっても、それ以上、空高く昇ることも、前後に動くこともなかった。どうやら、このベルトが締められないと出発することが出来ないように設定されているらしい。
最後のカチャっという音が響いたと同時にバスの車内のパッと明かりがつき、全員が一斉に顔を上げた。
―発車準備が整いました。これより、運転を開始します。
天井からのアナウンスがそう言うと、それまで止まっていたバスがゆっくりと進みだした。だんだんと速度は上がり、窓の外の景色は後ろへと流れていく。既にほとんど沈んだ太陽の日を背に、東の方向にバスは動き出した。
バスの車内は静かであった。
何人かは流れていく景色を恐れて顔をそちらに向けないようにしているが、それとは別に食い入るように窓を覗き込む者もいる。ふわりふわりと浮かび上がった時の頼りない動きとは違い、彼らが初めて体験する力強い加速は心をとらえるものであった。
「空を飛んでるんだ……、本当に、」
ロックがぽつりとつぶやいた言葉が印象的であった。
そんな彼らの様子を観察しながら、私は窓の外の景色を確認する。眠っていた病室より格段に周囲を見渡せる高い視点から私は1000年後だと言われた世界を見た




