3045/05/01 支払い方法
だんだんと地上に近づくバスは本当に大きなもので、バスというより電車の車体のようであった。飛行機や鳥のような翼と呼べえるような部分はなく、下から見えている範囲で空を飛ぶためのプロペラや何かしらの工夫は見えない。いったいどういった原理で浮いているのさっぱりわからないそれは、ちょうど森の木々程度の高さ辺りまで来るとそこで一旦動きが停まり、着地の位置を慎重に微調整しているのか、少しして再び動き出した。その時、プシュッとなにかガスが抜ける音が聞こえた。
―多田様。もう間もなく、バスが着陸いたします。着陸後、ドアから乗降用のスロープが出ますので、そちらを利用してご乗車ください。
アガートラムは私の隣で迫りくるバスへの乗り方を案内し始めた。それを聞きながら、ふと急にある大切なことを思い出し、背中に冷たい汗が流れる。周囲を見渡して、周りの子供たちの目が完全に空中のバスに向けられ私に誰も注目していないことを確かめると、小さな声でアガートラムに確かめるようにそれを訊ねた。
「……こっちに」
―はい?
「……その、これ、いくらかかるの?」
―地域循環型のバスですので、病院から施設までの料金は一律になります。
アガートラムからは具体的な金額ではなく、料金システムの話が返される。どこで降りても料金は変わらない安心設計だとアガートラムは説明するが、今の私には全く安心できない。
「いや、そうじゃなくて、その、……何円かかるんだ? 俺、金を持ってないぞ?」
見当違いな説明がされるので、少し考えてから、更に声をひそめてハッキリと今の情けない現状を伝えた。
何時間前かに目覚めたばかりで、本当の意味で着の身着のままここまで来ている。財布もカードもスマホなんかも私は持っていない。この状況、改めて、自分がいかにまずい状況にいるか遅ればせながら気づき、それを口にした。
このまま果たしてバスに乗り込んだどうなるのだろうか? 乗車拒否ならまだいい、乗れなかったのだから金は掛からない。しかし、乗り込んで降りる段階まできて、金がないとなったらどうなるか? 無賃乗車で捕まるなんて話なれば目も当てられない。あ、でも、警察はいないのか? だったら捕まらないか……、いやいや、そんな発想まずいだろう。
それに、今回の事を無事に切り抜けても、お金の問題はどこまでも付きまとう問題だ。どこかで解決しなくてはならない大問題に気づき、それをアガートラムにぶつけた。アガートラムからの返事はあまり簡単なものであった。
―バスのご利用料金は500マーナとなります。利用に応じた決済となりますから、全て多田様の口座からの引き落としになります。
ああ、そう。そうですか。よかった、よかった。……じゃない。
500マーナって何? 500円じゃないの? 私の口座にそれ入ってる? 私の口座って今から千年前のモノよ? 千年前の口座って使えるの? 様々な疑問が一気に頭の中で駆け巡り、言葉が口からうまく出せなくなる。




