3045/05/01 空飛ぶバス
森の木々よりもだいぶ高い空にその箱は浮かんでいた。鳥や星などではないと断言できる人工的で奇妙なフォルムなそれは、周りに比較できるものがないので確かな大きさは分からないが10メートルぐらいはあるように思えた。
ピー! ピー! ピー! バス到着となります。光線の枠内には立ち居らないでください。ピー! ピー! ピー!バス到着となります。光線の枠内には立ち居らないでください。
箱から断続的に警告音と注意が繰り返される。声が響くたびに空に浮かぶ箱はゆっくりと高度を下げ、それに合わせて光の壁は濃く、厚くなっている。それはあの箱が地上に降り立つ範囲を知らせるものらしい。
(なんじゃこりゃ?)
その姿を眺めながら、一番初めに思った事を口にする前に周囲から一斉に声が上がる。
「箱? 浮かんでる?」 「何だ、あれ?」 「降りてきてる!」 「下がれ、危ない!」 「見えない」 「わあ、すげぇー浮かんでる」 「タダサン、あれ何ですか?」 「みんな騒がないで、落ち着いて!」
あの不思議な箱を見て、それぞれ子供たちは素直な気持ちを言葉にしたのだろう。思っていたよりも、反応は穏やかなものであった。少し前にアガートラムと毛布の曲芸を見ていた子供たちの声に悪い感情は見当たらない。
―まもなくバスが到着します。多田様は車いすでの乗車となりますから、完全停車後、補助スロープ設置後に乗り込んでください。
隣からいつものアガートラムの声が聞こえてきて、それで金縛りのような硬直から解かれた。
「あ、あれ、バスなのか?」
―はい。地域循環バスになります。
「そ、空浮いてるぞ?」
―はい。浮いております。
空を浮かぶアガートラムからそれが何だと返事が返され、黙るしかなくなった。
(え、普通なの?)
アガートラムの反応を見てから、自分と同じような気持ち、感情を言葉にしている子供たちの方を見る。全員、空を浮かぶバスに興味津々という表情を浮かべていた。
(……どういうことなんだ?)
ピー! ピー! ピー! と響く警告音はだんだんと近づいてくる。天空に近いところにいたバスは木々の高さまでその高度を下げていた。




