白の遺跡 脱出
「おい、セン」「待って、もっと詳しく、」
こちらが止める間もなくセンの後ろ姿はガラス扉の向こう、再び遺跡の奥に消える。見えなくなった自分の代わりという訳ではないだろうが、彼の遺跡の奥に向かって走る音は長く響いた。
その足音が急に遺跡のどこかで止まる。
「ぉーぃ! ……」
遺跡の奥、ガラスの扉を挟み、かすかに聞こえる彼の声は誰かと話す様子であった。その会話なのか、呼びかけが終わると、またすぐこちらに向かって何かが近づく音が聞こえる。
今度は彼一人だけの足音ではなかった。ドタドタと響く音は先ほどまで聞いたモノとは違い、幾つかの重なりで生まれる合奏のようなものであった。
聞こえる足音だけでその正体を見破るのはおそらく不可能であろう。重なり響き合う足音は男のモノか、女のモノか、それが何人なのかもわからないが、外で待つ彼ら全員はその足音の主を正確に予測した。
そして、その予測は外れることなく大当たりした。
遺跡の奥から、徐々に近づく足音は三人のモノであり、男二人、女一人のモノであり、先ほど顔を見せたセンと彼を探すために遺跡に消えた二人、アールとロックのものであった。
三人の姿がガラス扉の向こうに現れると、外で待つ全員は声にならない声を上げた。その様子を見てなのか、ガラスの扉は三人と外で待つ彼らとを阻むような野暮なことはせず、走る三人が立ち止まることないようにすぅーっと開かれ、三人は仲間のもとにたどり着いた。
普段であれば、仲間内で涙を流すような真似は決してしないであろう悪ガキの集団は誰もかれもが目を潤わせ、鼻をすすって、感情が高ぶったまま喜びの声を上げた。
「セン、ロック、アール、みんな無事でよかった」「ほんと、本当に良かったなぁ!」「心配したんだぞ!」「遅いんだよ! もっと早くさぁ、出て来いよ!」「大丈夫か? 怪我とかしてないか?」「アールさん、あの、疲れてませんか?」「……、」「……、」
「みんな、ありがとう」「だから一気にしゃべるなって、わかんねーよ!」「心配かけて、ごめんな」
外で待つ全員がほとんど同時に感情を言葉にして口から出した。三人はそれを均等にではなく、平等に受け止め、それぞれの性格が現れた言葉で言葉に答えた。するとさらに、大きく感情は膨れ上がり、言葉はどんどんと口からあふれ出してきた。
「てめー、心配してやってるのに、その言い方はなんだよ!」「お前が一番悪いんだからな!」「あーあ、心配して損した」
「うっせー!」「こら! セン、ちゃんと謝れよ。みんなを心配させたんだから」「うー、」「ほら」
そもそもの原因となったセンに対して、手荒い言葉がどんどんとぶつけられ、それが行き過ぎないようにロックがその側に立った。
「アールさん、本当に大丈夫でしたか?」「あ、あの、のどとか渇いてませんか?」
「大丈夫。心配してくれてありがとう」
「い、いえ、」「そんな、ありがとうなんて、当然のことをしているだけで、」
数の少ない女性たちはアールの傍に駆け寄り、心配の言葉をかける。
自然と男女でグループが作られる。バカ騒ぎの様相も、百合の花が香る様相もそれぞれの人となりが生み出す劇の一幕であった。
その激しい感激の輪の外、舞台の端っこ、盲点、誰も注目していない場所、ガラスの扉は音もなく左右に開き、そこから、車いすに乗った多田和人は一人で久しぶりの外の空気を吸った。




