白の遺跡 足音
ガラスの扉の向こうから聞こえるその足音は一つだけであった。
焚き火に風、葉音、様々な音にあふれる森の中にあって、カツカツっと一定の早さで聞こえるそれはとても異質で耳に入り込み、頭に響いた。
その足音は男のモノにも、女性のモノにも聞こえる。この遺跡の中にいるのは、遺跡の前で待つ彼らが知る範囲ではセンとアール、それとロックの三人だけであるから普通に考えれば、遺跡の中から聞こえるその足音はその三人のうちの一人のモノだと考えられる。
そして、そうであるならば外で待つ彼らはその足音の主を、ただ温かく迎えればいいはずであった。
「お疲れさま」 「遅いぞ」 「中はどうだった?」
ねぎらい、皮肉、好奇心、最初にかける言葉はそのうちのどれでもいい。三人のうちの一人であるならば、どのように話しても話が通じるから問題はない。
しかし、誰も口にこそ出さないが、揺れた内側の芯が問いかける。その足音の主は誰であろうか? 本当に遺跡に入った三人のうちの一人なのだろうか? 一人であるならば、他の二人はなぜいないのか?
そんな疑問を考え始めると、遺跡の中、ガラスの扉の向こうで足音はぴたりと止まる。まるで、こちらが警戒しているのを察知しているかのような動きを見て、自然と全員が息をのみ、互いに顔を合わせ、手近なものを引き寄せる。静かに、本当に静かに鐘がなる前の準備が始まる。
もし自分たちの知る三人以外であったとしたら、果たして、自分たちはその足音の主と話し合うことが出来るのだろうか? いきなり襲い掛かってくるのではないだろうか? 戦うよりも一斉に逃げ出した方がいいのではないだろうか?
体が動くよりも先に考える者は、頭の中を高速で思考が巡る。
手元に置いていた槌や鉈などを構える者、そーっと静かに身をかがめて、足元の石をいくつか拾い上げる者、扉の方に意識を向けながら、同時に森の奥に目を向けて逃げる方向を定める者。
考えるよりも先に体が動く者は、決めた行動を行う用意をした時、声が響いた。
「おーい! みんな、聞いてくれ!」
ガラスの扉の向こうから、一番初めに遺跡に消えた男、この計画の発案者、センの大きな声が聞こえた。




