3045/05/01 異種族、異文化
ガコっと何かが外れる音が聞こえ、少しかび臭いような、ほこりの匂いが混じった外の空気が私の周りに流れ込んできた。徐々に開いていくボールの口からは、今まで聞こえていなかった外の音が届き始めた。
定期的に遠くから低く唸る音、ウィンウィンと何かが動いている音、そのほか様々な音が重なり合い、大演奏を響かせているわけだが、それらの大合唱は私よりも、ほかの四人の耳によく響いたらしい。
センたちはボールから外に出て、すぐに一塊に集まった。この先ほどまでとまた違う異形な空間に恐れ、不安の表情を浮かべ、首を左右に動かし、頭の上の耳をぴくぴくと小刻みに動かしている。その様子を見て、何となくやはり種族差があるんだなと変に感心してしまった。
一拍遅れて、いっしょに運んでもらった車いすを用意してもらってから、私はその輪に向かって進んだ。
「タダサン、ここで本当に一晩過ごすの?」
「うん。まあ、寝るのはあの中だから、それよりも、一回あの部屋の中に入って話をしないか?」
センは明らかに不安そうな表情でこちらに聞いてきた。それは他の三人も同じもので、私はセン一人に答えるわけでなく、全員に向かって答え、提案をした。それに誰も異存はなく、宿直室と書かれた部屋の扉を開けた。
「あ、臭くない」
「ほんとだ」
「ここなら少しは、」
「タダサン、でお話とは、」
私に続いて部屋に入った他の四人の声を聴きながら、私は車いすから自ら降りて、畳に腰掛けた。早速と触れた畳は久しぶりの感触で、懐かしい匂いがした。そしてほとんど無意識的な動きで、そのままゴロンと体を横にした。
「え? た、タダサン? 大丈夫か? 辛いのか?」
「……ん、大丈夫。なんか、疲れてしまって、」
もうそれはほとんど限界であった。肉体的な限界、精神的な限界、その極限の淵で何かの拍子に零れ落ちた瞬間的なものであった。たぶん、センの声があと一瞬でも遅れればそのまま眠りについてしまったであろう、その淵のぎりぎりで返事を返せた。
「疲れているのなら、あちらで休まれた方がいいですよ?」
「本当に大丈夫? いきなり床に倒れて?」
「タダサン、無理しないでください。具合が悪いなら、はっきりと言って」
「……、いや、大丈夫。」
いきなりの私の行動に、少し慌ててた様子でセンが声をかけてきた。話をしようといった本人がいきなり横なる無作法を責める様子ではなく、明らかに別のことを心配した様子は、センだけでなく、他の四人一緒であった。
明らかにこちらを心配した様子でそれぞれ言葉をかけてきた。その声が聞こえるたびに意識は少しづつ、淵を駆け上がり、何とか魅惑的な提案を跳ねのけて体を起こした。そして、全員に一つ質問をしてみた。
「ごめんね。いきなり横になってしまって、それで、あんな風に横になるのはそんなにおかしいことなの?」
こちらを心配そうに見ていた四人はその質問に即座に答えてくれた。
「うん」
「? はい?」
「そうね」
「そうですね。床に横になるのなんて言うのは、よほどのことがないとしないと思いますよ」
四人言葉ははっきりとしていた。そのおかげで、少なくても、ここは畳文化圏の世界ではないと改めて認識できた。
「床、床か、……これは畳というものなのだけど、知らないわけだよね?」
「しらない」
「干し草を固めたものを畳というんですか?」
「畳だろうと、何だろうと床で寝るのは変よ」
「私も聞いたことはないですね。……草を編み込んでいる? 手間がかかるものだというのは分かりますが、」
何か昔、読んだ本で書かれた畳を知らない外国人の話を思い出してしまったが、とにかく彼らの前で、畳に直で寝るのはやめた方がいいということは理解した。




