3045/05/01 誤解と解釈
「あ、あの、そのことでしたら、大丈夫ですから、安心してください」
結局、話をつづけるハクロのすきを見てそういう言葉を口にするしかできなかった。
「ですが、タダ様……、マナは貴重なものですから、すでに90万ものマナを子供たちのために使われているのに、また更に、ここで使われてしまえば、」
こちらが言った言葉をどうとらえているのかハクロは納得できない様子でごもごもと、ハクロはしゃべり続ける。先ほどの医務室での治療がタダであったと伝えればそれが落ち着くかもしれないが、ハクロの言葉の中で少し気になるものがあった。
"マナが貴重" それはここまでの話の中でその正体に検討をつけていた。
マナの正体は通貨である。それも、私が眠っている間に全世界中を巻き込んだ共通の通貨と考えるべきだろう。
AI、人工知能が金融工学に幅広く応用されていたのは私が記憶している世界の常識だった。人が読み込める情報より多く、人が判断市決断するより早い人工知能がそこを完全に掌握するのは当たり前の話だ。そこでは、世界のあらゆる通貨、国債、株式、金融商品が取り扱われ複雑怪奇な数式で膨れ上がったそれを瞬時にあらゆる場所で、形で処理されていた記憶がある。
だがそれは、あくまでも人間が作り上げた金をめぐるシステムである。人間がいなくなったというこの世界において、そういったお金の流れは無くなってしまったはずだ。しかし、現実にはそうなっておらず、逆にかつて存在していない世界で共通の通貨マナができている。
これはいったいどいうことなのだろうか? わざわざ世界で使える通貨を作り、それを人工知能がどうしてハクロたちにバラまくのか? 社会保障、ベーシックインカムとしてこれが使われている理由は何か?
考えて答えが出るとはとても思えない疑問が浮かぶ。以前にセンたちに聞いた時よりももっと深く、根源的な意味合いで、
「その……、マナが貴重というのはどういう意味なのですか? マナはどういったものなのか分かりますか? 」
自然とハクロにそう尋ねてしまった。
「マナですか? ……、タダ様、マナは成人した大人が月に一度頂く、生命力のようなものです」
「……はい?」
ハクロは私の質問に少し考えこんだ様子をみせ、神妙な様子で言葉をつづけた。しかし、その説明を聞いて、私は思わず変な声が出てしまった。
「生命力?」
考えていた言葉と全く結びつかない説明が始まった。
「マナは成人を迎えた子供たちが儀式を終え、およそ一月を過ごすと初めて与えられるものです。それから、おおよそ死ぬまでの間、満月の時期前後にマナをいただき続けます」
満月の時期? その言葉の意味がよくわからなかったがおおよそ思っていた通りの内容である。ちらりと見かけた総括の内容、シードに対して行ったベーシックインカム、一律一斉給付という形でそれがなされていると理解できた。
「あれ? その、もらうというのは手渡しではないですよね? こうざ、いや、なにか受け取る手段があるのですか?」
「はい。成人の際に儀式の終わりに祭壇から一人一枚づつ飾り板を授かります。そちらに毎月々、マナが預けられるのです」
飾り板? 授かる? カードかな? どのくらいの大きさなのか分からないが勝手に運転免許所のようなものを想像した。ハクロだけが先ほど登録があるというのはそのカードを持っていたから、成人をして、登録された個体にマナが給付されているということなのだろうと理解した。
「……生命力というのは、どういうことですか?」
ハクロの説明だけでは理解できない点があった。というより、自分が理解している範囲でマナは明らかに通貨、お金ののそれで、生命力というものとは明らかに別のモノだ。
「マナは結婚してもそれぞれ別々に渡されますが、子供を身ごもると女性はマナを多くいただけるのです」
ああ、そういことか。思わず声が出そうになったが、口を押えた。
「そして、出産し、子供を育てている間はその両親にそれぞれ多くのマナが渡され、子供が成人すると元に戻ります」
ハクロの説明は続いた。
子供が何かの不幸で亡くなるとその増加分はなくなるので、子供がいると間、多く渡されるマナはつまり人一人分の命、それは生命力なるものだろうと理解されたということらしい。
話を聞けばなるほどと納得できる内容で、つまるところ、ハクロたちはよくわからないマナというものを理解するために彼らなりの解釈を用いたということであった。
「その、最後に質問ですが、結局のところマナがあると何ができるのですか?」
ハクロの説明を聞きながら、根本的な質問が浮かんできた。彼らの生活は自給自足、総括に書かれていたが、マナが給付しても普及しない経済体制であるから、使われないマナをがっつりとため込んでしまうのではないだろうか?
「いえ、マナは生命力ですから、何をするにしてもその力をいただきます」
ハクロはそう言って、さらに話をつづけた。




