白の遺跡 逃亡
ブーンと甲高い蜂や虻のような羽音が聞こえた。遺跡の中を反響しているのか、その音はいくつも響いて聞こえる。
まず、その音に気づいたのはロックであった。続いて、うるさく口喧嘩をしていた二人も気づき、三人は無言で音のする方向に顔を向ける。ロックとアールが来た方向、出口がある方角から、その音は聞こえた。
三人が同時に見つけたのは、一つの球体であった。白地に赤い線が入ったそれは子供が蹴って遊ぶにちょうどいい大きさで、なぜか空を浮いていた。
羽もなく、吊り下げる糸も見えないのにその球体は不気味に音を響かせながら、だんだんとコチラに近づいてくる。
「あれ、何?」
「分かんねー」
「二人とも黙って」
―施設一部に武装した集団が侵入、ガーディアンは至急、現場に向かってください。繰り返します。施設一部に武装した集団が侵入、ガーディアンは至急、現場に向かってください。……
先ほどから鳴り響く言葉、ロックはその中で聞き取れた一言を口にした。
「ガーディアン……、」
「ロック、なに、何か知っているの?」
「ガー、何だって?」
ロックは静かに立ち上がり彼が倒れた際に落としたナイフとアールが向こう側に投げ込んだ大鉈を拾い上げる。そして、二人に向かって顔を向けないまま、言葉を発した。
「二人とも、逃げるよ」
「「え?」」
「走って!」
ロックの叫びと同時に、こちらに近づく球体はいきなり数が増えた。
正しく言えば、球体は一列に直線となって並び、こちらに向かっていたのをやめて横に広がっただけなのだが、三人にはその変化がまるで魔法のように見えた。ロックの叫びと増えた球体に三人は遺跡の奥に向かって走り出した。
「な、なにあれ!」
「ロック! あれはなんだ!」
「知らないよ!」
「うそ、追ってきた」
「ロック! 嘘つくなよ! ガーディアンってお前、何か知ってるだろ!」
「ああ、分かった。あとで話す。とにかく、今は走って逃げるよ!」
「ああ、増えた」
「絶対だからな!」
走りながら、センはロックに強い口調で問いただす。何かを知っているロックはそれをはぐらかすように明確には答えず、とにかく逃げろと絶叫した。アールは途中何度も後ろを振り返り、その都度、数が増える球体に驚きを通り越して、恐怖を覚えた。
「何あれ、なにあれ、なにあれ!」
「ロック! 前にもいる」
「そこ!」
逃げる三人を挟み込むように前方からも姿を見せた球体が迫る。三人はとっさに近くの部屋に逃げ込み、シーツをかぶって物陰に隠れる。
「セン、これ持って!」
「ああ、分かった」
「わ、私は?」
「ごめん、何もない」
「そ、そんな」
「俺、ナイフ持ってるから、ほら」
「そっちを寄越しなさい!」
隠れながら、三人は手持ちの武器を融通した。
三人の手元にあるのは大鉈が一本、大きなナイフが一本、小さなナイフが一本である。体の大きさと反比例に武器が渡される。抗議の声をアールが上げようとしたが、天井から響く声にそれは妨げられた。
ー施設への侵入を確認、警備システムが起動します。入院中の患者様は安全が確保されるまで、絶対に病室から出ないでください。繰り返します。入院中の患者様は安全が確保されるまで、絶対に病室から出ないでください。……、
カチャカチャっと建物内のドアが一斉に閉まる音がする。それと同時に、猛烈に嫌な予感がする。




