白の遺跡 探索
遺跡の中に足を踏み入れると先ほどと同じように暗闇が晴れた。昼間に降り注ぐ太陽とも、焚かれた火のそれとも全く違う。もっと強く、安定した不思議な光を浴びて、アールの足はすくみ、完全に止まった。少し前まで、凛々しく、華麗に、集団へ的確に指示を与えていた彼女であっても、やはり、未知なるものは恐ろしかった。
「同時に入るぞ」
「……うん」
そんなアールの姿を見て、ロックはぽつりと言葉を掛ける。短い言葉に含まれた優しさはきちんとアールのもとに届いた。
不思議と、隣に誰かがいると分かると体は軽く、すくんでいた足はスッと前に出せた。
足を一歩先に踏み入れると、更に光は奥まで注がれた。遺跡の内部、そこは大きな広間となっていた。仕切られた舞台に向かって、多くの椅子が何列も整然と並べられていた。
年に一度の儀式使われるそこは、もっとかび臭く、ほこりっぽい場所を想像していた。しかし実際に入ってみて、そこは全くかび臭くなく、ほこりも積もっていなかった。入る前に嗅いだ甘い香りが、遺跡の内部ではより一層濃くただよっていた。
「なに、これ?」
今まで生きてきて嗅いだことのない匂い、花や果物のそれをもっと濃くして混ぜたような匂いは強くこちら刺激する。
「分からん。少し待て、アール、あまり嗅ぐな。これで塞げ」
「あ、ありがと?」
ロックからなぞの布切れもらい、アールはきょとんとした。そんなアールの様子にお構いなく、ロックは顔の下半分を隠すように布で覆うと、布の端を頭の後ろで結わえた。その行動を見て、アールは布の使い方を理解した。
少し息苦しいが、刺激する匂いが減少したような気がした。
「センはまっすぐに奥に向かって走っていったから、このまま進むぞ」
「うん、でも、ちょっと待って」
アールが同じように布で鼻を覆うとロックはそのまま進もうとした。しかし、それをアール制した。
「何だ?」
「ちょっと、待ってて」
アールはてくてくとロックの傍を離れ、センが投げ込んだ大鉈を拾い上げた。
「行きましょ」
大鉈を担ぐようにして、アールはロックの言葉を掛けた。その様子をみて、ロックも右手にナイフを構えた。
二人は警戒しながら、センが走り去った方向に向かってゆっくりと進んだ。時折、止まって、おーい、おーいと言葉をかける。しかし返事は返ってこなかった。
「おーい! セン!」
「セン! もっと、奥の方にいるのかしら、二階に上がってはいないと思うけど」
「……多分、そうだと思う」
「そうよね」
遺跡は二人が想像していたよりも複雑な構造であった。広間の奥にはもっと多くの空間があり、更に、二階、三階へと続く階段が存在した。たった一人の人間を探し出すのに、この空間は圧倒的に広すぎた。
「ここは、どういった場所なのかしら?」
歩きながら、アールはロックに話しかけた。
不思議な遺跡、歩く先を照らす光に、甘い香り、先ほどまでの森の中で感じた肌寒さも無縁な遺跡にアールの興味は移っていた。おそらくは山のような大きさの石をくり抜いて作ったのであろうここが何の目的で存在しているのか彼女は純粋にそれが知りたくなった。
「分からん」
ロックの言葉はどこまでも素っ気なかった。
二人は、ようやく遺跡の奥、また、ガラスの扉にたどり着いた。




