3045/05/01 交渉結果
「どうすればって、あなた、いや、失礼、タダカズトさんは、その、……本当に、それでよろしいんですか?」
絶句したあと、奥歯に何か詰まったような言い方でハクロはそう訊ねてきた。彼の後ろに控える人の輪はまたざわつき、セン達もこちらを無言で見てくる。急に向けられる視線の圧力が増えたような気がした。
私にはその増えた視線の意味がよく分からなかった。ただ何か誤解があっては困るので、順を追って説明を始めた。
「ええ、先ほども言った通り、私は子供たちをここに連れて来ただけです。いつ戻られるのか分からない町長さんを待て、いつまでもこのままずっと向かい合っていても仕方ないじゃないですか?」
「……、そう、いや、……そうですけど、」
私の説明に対して、先ほどよりも歯切れの悪い返事をハクロは返した。彼の後ろに控える人たちが向ける視線の圧力が軽くなり、その反応を見て、一応誤解はないようだと安心する。一方で、未だにこちらを無言で見つめる子供たちの様子から、ある可能性が頭を巡った。
「あ!」
「はい! いったい、何ですか?」
急に私の口から言葉が出た。それにハクロは急いで対応し、視線がまた一気に集まった。
「その、できれば、あまり彼らを叱らないでください。みんな本当に疲れていると思うので、今日は先に休ませてあげてください。」
「は、はぁ、わかりまし」
「あ、でも、晩御飯は何も食べていないので、先に食べてからの方がいいのかな?」
「はぁ」
「それとですね、」
ここまで行動を共にしたセン達には友達とはいかなくても、顔なじみ程度の気持ちがある。だから、彼らがあまり厳しく親や親せきから怒られないようにしてあげたかった。
これほどの大事になってしまっては全く叱らないというのは難しいし、あり得ないだろうが、子供たちはすでに限界の様子であったし、せめて今日だけは許してあげてほしいと伝える。それを言い終わり、ハクロが何とも言えない返事を返す途中で、今度は、そういえば食事を取っていなかったことを思い出し、それが心配となって口から出た。
ハクロはいよいよ言葉が少なくなり、他の大人たちも私の方を向いているが、それは私を見ている様子ではなかった。子供たちは何とも言えない表情を浮かべて私を見ている。
そのあとも、同じことを繰り返した。こうなった原因は自分自身の能力の低さ。大勢の人を前にして、うまく言葉をまとめられなかったことにあるが、だらだらと終わりが見えない話し方で話し続けたので、聞いている人は皆、均等に疲弊した。
それでも、始まったことは終わりがある。思いついたものは全て言葉にして、伝え忘れたことはないと思えるところまで来て、自分がこの後どうすればいいのか何も考えていなかったことを思い出した。
「あ、あの、それで、」
「はい。あとはなんですか?」
「あと最後に出来れば、町長さんたちを待っている間、どこか体を休める場所を貸していただけませんか? 場所代はお支払いしますから」
「はぁ、分かりまし……え?」
「そうですか。あ、マナでの支払いでいいんですよね?」
「あ、いや、……結構です。分かりました。宿を手配いたします」
ハクロは一瞬こちらを見た後、視線をそらして、頭を下げた。




